読み物あれこれ(読み物エッセイです)
読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
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君にしか聞こえない 乙一 著
なんとも独特の世界。 人と話すことが苦手な女子高生。 クラスメイトはいるが、気軽に話しかける相手は一人も居ない。 同じクラスの皆が携帯電話を持っている中、彼女一人だけは持っていない。 携帯を持ったとしても、掛ける相手がいないのだ。 でも、いつかは携帯電話を持ってみたい。携帯電話で誰かと話をしたい。 と思ううちに、頭の中ではいつも携帯電話を持った自分を想像する。 毎日毎日頭の中での想像の携帯電話を持ち歩いていると、腕時計を忘れたことにも気が付かない。 頭の中の携帯の時計を見ているのだ。 そんなことが続くある日、頭の中のイメージのはずの携帯電話が鳴り始める。 人と携帯電話で話をする。 妄想だろうと思ってしまうのだが、現実に存在する男の人だった。 彼もまた、現実界では孤独な人。 そんな彼とほぼ頻繁に電話をするようになるが、はた目から見れば頭の中で話しているので、単に黙っているだけに見えてしまう。 だからテストの最中に問題を読んで協力してもらうことも出来てしまう。 その彼と実際に会おうということになり、悲劇が起きるのだが、その時の彼の優しさ、彼女の優しさ。 そしてもう一人、脳内電話で知り合った年上の女性の温かさ。 荒唐無稽な話のはずなのに、何かじーんと来るものがある。 他に「傷」という話と「華歌」という話の計三篇。 怪我をしている人とすれ違いざまにその人の身体に触れることでその怪我を引き受けてしまう他人の傷を自分に移動させることの出来る少年。おかげでその少年の身体は傷だらけ。というの話と、入院している病院の庭に咲いていた歌をうたう花。 花の中には少女の顔が・・・。という話が二篇。。 周囲の人と接することが極端に苦手なのだが、誰よりも心は美しい、この作者はそんな人を登場させることが多いようだ。 ![]() 27/Jul.2017 プーチン 内政的考察 木村汎 著
プーチンが最初に大統領に就任したのが、2000年。間にメドベージェフを傀儡として立てた時を挟むが、まる17年間、ロシアのトップに君臨してきた。 アメリカの大統領が任期4年再選でMAX8年の倍以上。 日本のどこかの地方自治体ならともかく、世界のトップリーダーの中でこれだけ長期に渡って政権を維持している人はおそらくいない。 著者の木村先生は2018年の大統領選もプーチンで確定とまで断言しておられる。 となると25年・四半世紀という長きに亘っての政権維持となる。 25年がどれだけ長いか。 幕末にペリー来航から江戸時代が終わり新政府が出来てその新政府を作った中心人物(木戸・西郷・大久保ら)が全員死に絶えるまでの間が25年なのだ。 その間にどれだけのことがあったか。 四半世紀というのは島国日本でさえそれだけの歳月だ。ロシアという広大な国ではなおの事だろう。 2000年からの2期をプーチンPART1だとすると、このPART1は大成功。 旧ソ連邦参加の国が次々に独立し、ソビエト連邦そのものも崩壊。そして何百人という貧困層の出現。 そんな中で就任したプーチンに求められたのはグラスノスチ(情報公開)の延長でも無ければ、ペレストロイカ(政治改革)の延長でも無かった。 強いロシアの復活と国民を貧困から脱却させること。 この貧困からの脱却という点では、プーチン期に入って原油価格が高騰したこともあり、国民への期待には見事にこたえた格好だ。 PART1の幸運な大成功に比べると、プーチンPART2は問題山積み。 原油価格の暴落、ウクライナ危機にてEU諸国よりの経済制裁、原油で稼いでいる時に産業育成をしてこなかったつけが廻って来て、天然資源輸出に変わる新たな産業が何も育って来ていない。 日本の1/4以下のGDPでありながら、100万人とも言われる軍隊を養っていかなければならない。(ちなみに日本の自衛隊は23万人) どれだけ大変なかじ取りか。 それでも大半のロシア国民はクリミア併合、ウクライナ対応を指示しているという。 だが、現在のロシアでいうところの支持率などというものがいかにあてにならないか、木村先生は教えてくれる。 メディアというメディアにはほとんど国の資本が入る。 外国資本の入ったメディアは許されない。 そして、支持率の調査にしたって、無作為に街中で声をかけたわじゃじゃない。 自宅にかかってきた電話に対して答えなければならないのだ。相手はこちらの電話番号を知っている、となれば下手な受け答えは出来ない。 須らく、指示する、と言っておいた方が無難に決まっている。 そんな支持率の数字、どれだけあてになるのか。 選挙制度も度々手を入れて来ている。 反対勢力が育とうにもその芽がどんどん事前に摘まれて行く。 何より、ジャーナリストの不審死者数が異様に多い。 プーチンが政権を取って依頼、プーチンに好意的な記事を書かなかった側のジャーナリストが年間平均17名もの不審死で亡くなっているという。中には明らかな暗殺もある。 それはプーチンが指示をしたのか、プーチンの気持ちをおもんばかった旧KGB系の連中が勝手に動いたのかはわからない。 それでも一人の政権の間に300名弱のジャーナリストが命を絶たれているというのは異常だろう。 明らかに民主主義ではない国、言論が自由では無い国ならば殺される前に発言しないし、その兆候があれば拘束されるだろう。 表向きは民主主義国家で、言論自由国家でありつつも実体は乖離していく。 木村先生が言う通り、プーチンが次も大統領で決定なら、プーチンPART3は更に厳しいかじ取りが迫られるのではないだろうか。 ![]() 06/Jul.2017 海の見える理髪店 荻原浩 著
読み終えて、思わず散髪屋に行きたくなってしまった。 この本では床屋と呼んでいる散髪屋というところ、なかなか贅沢な場所だったんだ、とあらためて思った。 ひげをあたってもらう。 髪を洗ってもらう。 散髪屋へ行けば当たり前のことだと思っていたが、なんて贅沢だったんだ。 この本の主人公氏は普段は美容院へ行っているらしい。 美容院では髭をあたったり、髪を洗ったり、肩をポンポンポンと叩いてくれたりしないのだろうか。 この散髪屋のオヤジも話がまた、戦前から始まって、戦中、戦後と床屋としての自分がどう歩んできたかを語って行く。 こういう話を毎回聞かされんだったら、この散髪屋はちょっと辛いかも・・。 と思いつつ読みすすめると、別に誰にでもこんな話をするわけではないらしい。 やけに長い話のようでありながら、語り終えて時計を見ると、椅子に坐ってからちょうど1時間。 散髪も洗髪も髭剃りもマッサージも全部終わっている。 さすが、職人。 他にいくつかの短編が収録されている。 短編同士にほとんど類似性はない。唯一あるとすればどこかで家族が登場するということぐらいか。 「いつか来た道」 見栄っ張りで自己主張の強い母親に久々に会ってみると、認知症の気が・・。 「遠くから来た手紙」 一旦結婚して家をでた女性というもの、いつでも気軽に実家に帰ってこれるものだと思っていたが、弟が結婚しその夫婦が実家で親と同居ともなると、一日二日の帰省はまだしも、少し永くなると居場所がなくなる。とまぁ本編の狙いとは別だが、その当たり前といや当たり前のことを気づかせてくれた。 「空は今日もスカイ」 英語を習いたての女の子が、なんでも言葉を英単語にしていく。 シーシーシー彼女が海を見る。 「時のない時計」 これも理髪店にような職人技師の話かと思ったがちょっと違った。 「成人式」 娘を亡くした父母が、娘の代わりに若作りをして成人式会場へ。 なんだかんだと言って断トツに「海の見える理髪店」が良かった。 さぁ、至福の時間を過ごしに、散髪屋へ行って来ようか。 ![]() 04/Jul.2017
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