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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Sep.2021
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斗棋(とうぎ) 矢野 隆
蕩尽王、パリをゆく ― 薩摩治郎八伝 鹿島茂
時が滲む朝 楊逸
特命捜査  緒川 怜
床屋さんへちょっと  山本幸久
トロール・フェル キャサリン ラングリッシュ
トワイライト 重松清
同期 今野敏
ドラゴンランス マーガレット・ワイス、トレーシー・ヒックマン
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斗棋(とうぎ) 矢野 隆

昨年出版の本で「ダークゾーン」(貴志祐介著)にという仮想世界の中での将棋やチェスに似たルールで人間が闘うという物語があった。

「斗棋」という話もそれに近いのか、と思っていたが、全く違う世界が繰りひろげられていた。

「ダークゾーン」は次のステージになれば再度生き返るが、「斗棋」はそんな仮想世界じゃない。一度きりの命を張った闘いだ。

舞台は江戸時代の黒田藩内にある宿場町。

博徒の二つの勢力が、いや組と言い換えた方がわかりやすいか。
本の中の言葉とは違うが、元は一つだった組が分かれて二つになって、縄張り争いだの抗争だのを繰り返している。

まともにぶつかりあったら、即、お縄になる。将棋での勝負なら問題あるまい。
そこで、始まるのが「斗棋」だ。

歩が互いに九枚ずつ、飛車、各、金二枚に銀二枚。

相手と駒が接触するまでの棋譜で言えば、普通の将棋と一緒だ。
▲7六歩 △3四歩と互いに角道を開けて角を取りに行くということは即ち角交換だ。
相手の角を頂く代わりに、自分の角を相手に差し出す。


どころが「斗棋」では、相手の角の上に角を置いた段階で、互いの角の役割を与えられた子分同士が命を張った闘いをする。
勝てば、相手の角は盤上から消え、手駒にもならない。
だから、相手の角を頂く代わりにがない。その角を銀で取りに来れば、その銀の役を担った子分と角がまた闘う。


親分はもちろん、玉だ。
将棋のルール通り、玉が取られたらそれでゲームセット。
極端に言えば、△8四歩 △3三角成(王手)で三手で玉を倒せばそれでゲームセット。


逆に「詰み」というものも発生しない。
これまた極端な話、自陣の駒が全部相手に倒されようとも、玉が残りの勝負全て勝ってしまえば、手駒無しでも勝ててしまう。

ならばやはり、喧嘩の強いヤツが一人居れば勝つだけじゃないか、と思うかもしれないが、そのとことん強いやつをどこに配置して、次の手をどう打つか、という戦術が大事になる。
とことん強いやつが居たところで、そいつをかわして玉だけを狙いに行く戦術もありえる。

物語としては、そんな戦術めいた話があるわけではない。
侍同士の斬り合いでは無く、田舎の博徒同士の泥臭い命掛けの闘いだけにやけに生々しい、そんな闘いが繰り広げられる。

と、出版されて間が無い本なので、未読の方のためにも本筋をはずした本の紹介をしておきます。



斗棋  矢野 隆 著 (集英社)トウギ


22/Aug.2012
蕩尽王、パリをゆく ― 薩摩治郎八伝 鹿島茂

大富豪が散財の限りをつくし、現在の貨幣価値にして800億とも言われる金を放蕩で使いつくしてしまう。
明治〜昭和のノンフクション。

なんだか途轍もない豪快な逸話の数々を期待してしまう。

タイタニック号を借り切ってみたり、全世界の映画スターと豪遊してみたり、オリンピックの金メダリストを集めて自分だけのオリンピックを開催したり・・・なんて途轍もない逸話が書かれているわけではない。

治郎八氏は芸術を愛する人でありながら、決してコレクターにはならなかった。
コレクターとして収集するのにお金を使うのではなく、寧ろ芸術家のパトロン、良き理解者としての散財をする。

明治から大正という時代、第一次大戦を経て、空前の好景気を甘受した日本人は多かっただろう。

今のお金にして800億というのはとんでもない巨額だが、平成の今でさえ100億という巨額をバクチにつぎ込んでしまう人がいるぐらいだ。
当時の貨幣価値をどういう基準で現在の価値に結びつけたのかは知らないが、その当時の大金持ちなら、もっと桁違いの金遣いをしていた人が居てもおかしくはない。

コレクターとしてもっと金を使った人もいりゃ、本業を維持しながらも豪快に金を使った人もいる。

本の冒頭では、治郎八氏は放蕩で全てを使い切ってしまうところが素晴らしい、とそのあとの展開にかなり期待をさせてくれる。

ところが、寧ろ、豪快な逸話がありながらも極めて記述の仕方は地味なのだ。

それどころか、この筆者はやはり学者なんだなぁ、と思ってしまう。

本人の書いた手記にアラビアのロレンスと会ったことや、コナン・ドイルと会ったこと、フランスの外人部隊に入隊したことなどが、事実だったかどうか、その年号や妥当性の検証やら傍証にかなりの枚数を割いている。

史実探究の推理の過程を楽しむ人にはおもしろいのかもしれないが、初めて薩摩治郎八なる人物にお目にかかった読者がそこまで治郎八オタクになるには、少々関門が高過ぎる。

放蕩で全てを使い切ってしまう、というよりも昭和の戦争で日本人が皆、何もかも失ったのと同様に、金の出どころの実家が傾いてしまった。
日本人が皆一文無しからの出直し。
放蕩で使い切ったというのは、ちょっと意味が違うかもしれない。


それでもまぁ、いずれにしろ、若い頃からとんでもない金を自分のやりたいことのために自由に使いまくったわけだ。

当然、我が人生に悔い無しだろう。

蕩尽王、パリをゆく―薩摩治郎八伝― 鹿島茂/著 金は使うためにある! 大富豪の華麗にして波乱万丈の生涯。 新潮社


30/May.2012
時が滲む朝 楊逸

中国人として初めての芥川賞受賞。
あの天安門事件の時の大学一年生が主人公。
学生達の叫んだ民主化、民主化は掛け声だけだったのだろうか。
登場人物は民主化とはいかなるものなのか、イメージがつかめないままどんどんその運動の渦中に入って行く。
天安門事件を扱うのなら、あの当時中国の学生達を燃え上がらせた、また燃え上がらざるを得なかったその背景についてもっと踏み込んでいってほしい気持ちはあるが、民主化と言ってもそのイメージもないままに突入した学生が主人公ならばその背景を描くことは返って矛盾となる。

学生を煽った先生はアメリカへ亡命。
かつての同志たちもバラバラに。
日本へ移住した主人公は中国の民主化運動のグループに参加する。
ちょうど北京五輪の最中である。
その北京五輪の開催反対の署名活動を行う人物が主人公になった本がこの時期に賞を受賞したこととの因果関係などを勘繰りたくなってしまうが、芥川賞の受賞作家達が選考委員となって決定される賞である。
背後に政治的意図などは皆無だろう。

主人公はひたすら生真面目に香港返還の反対運動や五輪開催反対運動を行おうとするのだが、グループに集まる人々の目的は様々で、商売のための人脈作りが主だったりする。

中国本国の経済発展を横目で見ながら、民主化という名の霞みだけを食っていては誰も満足に食べてはいけないということなのだろう。

この本より何より楊逸という人の芥川賞受賞のインタビュー記事の方がはるかにインパクトがあった。
このインタビュー記事の内容を小説にした方がはるかに読む者を引き付けたのではないだろうか。

幼年時代は文化大革命の真っ盛り。
五人兄弟で長姉は下放の折りに事故で亡くなる。
その次は一家全員が下放でハルピンの家から地方へ。
行った先は零下30度の激寒の地。
もちろん電気もガスも暖房器具に相当するものも何にもない。
何年かしてようやくハルピンへ帰ることが出来るのだが、一家で飼っていた愛犬までは連れて帰るわけにはいかない。
近所の人に面倒をみてもらおうとお願いしたら、鍋にして食べられちゃった。
うーん、なんとも中国らしい話だ。
帰ったハルピンには住む家がない。
一家が住んだのはなんと高校の教室。
学生達が登校してくる前に携帯のコンロで朝ごはんを作り、登校してくる頃にはそれぞれの職場や学校へ散って行き、学生達が帰るとまたその教室へ舞い戻り、晩御飯。

ようやく学校の敷地内に部屋を設けてもらうが、お隣りの一家が学校が購入したテレビをお正月にみようと自分の部屋に持って来て、というあたりも中国人らしさならそのあとがもっとすごい。スイッチを入れたとたんにテレビから火が吹き出して、部屋は全焼。
そのあおりを受けて楊逸さん一家の部屋も全焼してしまう。

なんともはや踏んだりけったりもいいところ。
ただ多かれ少なかれ、党員のエリートでもない限りは同じような境遇に出くわした時代なのだろう。

今でこそ、経済発展めまぐるしい中国だが、ほんの少し前までは街中は人民服と自転車であふれ、カラー写真といえば毛沢東の写真ぐらい。
モノクロの時代だったのだ。スイッチを入れただけで燃え上がるなんてというテレビを作る方が難しいのではないか、と思えるが、この話は誇張ではないのだろう。
肝心の天安門事件の頃にはもう日本へ移住していたが、北京に学生が集まる姿を見て傍観は出来ないと北京まで足を運んでいる。
人民解放軍が登場する頃には実家へ戻っていたので、難は逃れたが、その楊逸さん自身が民主化運動って何なのか意味が良くわからないままだったと言っている。
素直な人だ。
妹を連れて北京を歩き、蘭州ラーメンを食べさせたところ妹がチフスにかかってしまう。親はそんなものを食べさせるからチフスにかかるんだ、と中国に住む人でさえ中国の食に対する信用は薄い。このあたりは今でもそうなのだろうか。

いずれにしても、そんな生い立ちをもってしても楊逸という人なんともあっけらかんとしている。
これがいわば大陸の気風というものだろうか。
次作ではそういう大陸の気風というものが作品に表れたらいいのになぁ、などと思ってしまうのである。

第138回芥川賞受賞 時が滲む(にじむ)朝 楊逸(ヤン・イー)著


20/Aug.2008
特命捜査  緒川 怜

この作者、かつて警察の鑑識とかそういう組織にでも居た人なんじゃないのだろうか、などと思わせるほどに警察内部の言葉などに詳しい。
死亡推定時刻の算定の課程、射撃残渣などの箇所も全く外部の人間が描いたとは思えないほどに描写が精密で、その臨場感があふれる。

招き猫の焼き物の工房を営む初老の男性の死体。物語はそこから始まる。
その被害者は実は10年前に公安を退職した人物だった。

その10年前に起こった出来事というのが、終末論を唱えているカルト集団が、自ら武器を製造して蓄え、最後には警察に施設を囲まれた中、教祖をはじめ集団自殺をしてしまう。
その残党のグループを根こそぎ、片付けたのが公安だった。

なんともあのオウム事件はいろいろな小説に影響を与えているらしい。

その公安の捜査官と警視庁、警察庁の刑事というのは根っから相性が悪いらしい。
刑事達は公安をハムという蔑称で呼び、
公安の捜査官は選民意識が強く、刑事達を「ジ(事)」という蔑称で呼ぶ。

この小説、そういう警察ならではの用語が散りばめられ、麻生幾の『ZERO』なども彷彿とさせるようなタッチで中盤から終盤の手前まではまではグイグイと引っ張り込まれるのだが、終盤がどうもなぁ、と残念でならない。

もちろん、結末を書くような愚は犯さないが、おそらくこれとこれは繋がっていたんだろうな、と徐々に想像を逞しくしていたものが、え?それとこれも実は繋がっていて、これとあれも実は繋がっている?ご都合主義と言う言葉を使いたくは無いが、何やらコナン探偵ものみたいなくっつけ方をしていかなくてもいいじゃない、と言いたくなってくる。
小説の中で「事実は小説より奇なり」を使うのはいかがなものなのだろう。

とは言え、そのような感想を持つのは少数派だろう。
何と言ってもそれまでの緻密な筆致があるだけで、まぁ充分に楽しめると言えば楽しめる小説である。


特命捜査  緒川 怜 著 光文社


22/Jan.2010
床屋さんへちょっと  山本幸久

「やっとるかね」

それが先代の社長の口癖。
職人で中卒で一から菓子メーカーを築いた先代。

後を継いだ宍倉勲はたったの15年で会社を倒産させてしまう。
二代目として後を継いだ後も先代を慕う社員が多く、一度も会ったことのない若い社員までもがその「やっとるかね」 の口真似が口をついて出てしまうほどに先代の存在は大きかった。

オイルショックの影響があったとはいえ、誰しも二代目と先代との経営者としての才の差だと感じたことだろう。

いくつかの章立てで仕上がっている本で、各章は年代順ではない。
寧ろ年代を遡って行く。

冒頭の賞を読み始めた際には年老いた頑固オヤジと出来の悪い娘の話か、と思ってしまったが、そんな思いはだんだんと吹っ飛んで行く。

章を重ねる毎に宍倉勲という人の人生に対する誠実さがあらわになって来るのだ。

二代目として会社を継いだ時も、倒産をさせてしまった時も、倒産の後の再就職先での仕事においても、どの段階でも宍倉勲という人は誠実で真剣そのものだった。

章が進んで娘が小学生の時、父の仕事ぶりを独占密着取材する、と言って父の再就職先の仕事場へ付いて来た時の話などは圧巻だろう。

その頃からちゃんと娘は父の仕事ぶりを見て来たのだ。
父の言葉を、仕事ぶりを、ちゃんと取材したノートの内容を頭に刻み込んでいた。

そして父は単に平凡で真面目だけが取り柄の人ではなかった。
多くの人から信頼され、慕われる人だった。

娘にはちゃんと伝わっていたし、孫にも。

「さいごまでかっこよかったよ、おじいちゃんは」と孫から言われることは、おじいちゃんには最高の褒め言葉だろう。


各章に必ず一度は床屋が登場する。
それは同じ床屋ばかりではではなく、旅先の床屋、海外出張先での床屋だったり。

その床屋の場面がこの小説のいいスパイスになっているのかもしれない。


床屋さんへちょっと [集英社] 山本幸久 著


14/Aug.2010
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