読み物あれこれ(読み物エッセイです)
読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
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錨を上げよ 百田 尚樹 著
いったい何を読まされてしまったんだろう。 帯も書き過ぎだろ。 『大ベストセラー、永遠の0をはるかに凌ぐ感動!』って。 百田さんの書いたものは大抵読んで来たつもりだったが、この本は知らなかった。 これまで何某かの感動を与えてくれる本ばかりだっただけに、なんだろう。この残念感。 主人公の小学時代、中学時代なんて少年時代のことをだらだらだらだらといつまで書いてんだ? これがあとでそんなに大事な伏線にでもなるというのか? というよりも全体的に長すぎる。 その割に内容が無い。 いつになったら頭角を現すんだ?いつ碇をあげるんだ、と期待を膨らませられながらもだらだらが続く。 レコード店でようやく本腰を入れ始めた時は、なんだツタヤもびっくりの事でも始めるのかと思いきや、結局これも途中で投げ出してしまう。 そんなに才覚にあふれ、アイデア豊富でやる気満々なら、オーナーに文句たれて消えてしまうんじゃなく、自分でなんでやらないんだ、この男は。 結局、北海道の北方領土の近海での密漁が一番の読みどころになってしまった。 ソ連の警備艇と日本の海上保安庁双方から逃げ回るこのシーンはなかなか迫力があり、臨場感もあった。 結局それもやめて、大阪へ帰って来てテレビのフリー放送作家に。 まさか、自伝か? いやそんなはずはないだろうが、大学時代と言い、時代背景と言い作者の生きてきた時代そのものを自分の体験も織り交ぜて書いていることは確かだろう。 じゃぁ、今度こそ放送作家を天職として何かを成し遂げるのか、というと、結局、これも何も成せぬまま、またまた投げ出してしまう。 最後が一番ショックだったかな。 最後の最後まで読んで、うそだろ。これが終わり? 上下巻のこのクソ長い、手も重たくなる様な本を読んできて、こんなエンディングなのか? せっかく放送作家になったんだから、せめて「探偵ナイトスクープ」を手掛けた時の事ぐらい書いてくれていたら、まだちょっとは救いがあったのになぁ。 ![]() 11/Mar.2019 カエルの楽園 百田 尚樹 著
なんともわかりやすい本だ。 天敵のダルマガエルの攻撃で、毎日毎日ダルマガエルに食われて命を落として行くアマガエルの一族。 長老は時が過ぎるのを待つ。今は耐えるしかない。 を繰り返すが、若い主人公その名もソクラテスは、座して仲間が食われて行く状況を待つことに納得がいかない。 60匹ばかりの同志と共に安住の地を求め、生まれ故郷を旅立つこととする。 だが、外の世界に安全な場所などなく、カラスに狙われ、マムシに狙われ、水の中ではイワナだって天敵だ。 仲間はどんどん減って行き、最後はとうとうソクラテスともう一匹の二匹だけとなってしまった。 その最後に辿り着いたのが、ツチガエルたちが住むナパージュというとても平和な国。 天敵が襲ってこないのだ。 天敵が襲って来る心配をしなくてもいい場所、というのは二匹にとっては、おそらく初めての体験。 何故、天敵が来ないのか。 この国には三戒を守っているからだ、とツチガエルたちは口ぐちに言う。 三戒とは 「カエルを信じろ」 「カエルと争うな」 「争うための力を持つな」 もう、皆まで読まんでも早くもこのあたりでなんとなく察しはついた。 が、読み進めて行くと、ツチガエルたちは謝りソングという唄を歌い、自分たちの国が過去に起こした残虐な行為を謝りつづける。 そしてその三戒を守り、謝りソングを唄うだけで、本当に平和で安全な国になるのか、この国についてもっと調べることにする。 そして新たにわかったのが、実態はスチームボートという名のタカの存在。 彼が崖の下から上がってくるウシガエルににらみを効かせていた。 三戒を守れば平和は来るのだ、と演説するのはこの国で一番物知りと言われるデイブレイクというツチガエル。そして皆が拍手を送る。 やがて、南の崖からウシガエルが一匹、そして二匹・・・と表れてくる。 いやぁ、そこまでそのまんまにしなくてもいいだろう、というぐらいに念入りだ。 言わずもがな「三戒」とは憲法九条で、ツチガエルたちが住むナパージュという国はもちろん日本。 スチームボートという名のタカはアメリカで、デイブレイクと言う名の物知りは朝日新聞。 南の崖から現れるウシガエルが中国。 その他、現在の南シナ海の現状とおぼしき内容を訴えるカエル。 安保の集団的自衛権についてとおぼしきやり取り。デモとおぼしき行為をする学生団体シールズと思われる若いカエル達。 三戒さえ守っていれば安全が保たれる、というが相手が三戒を守ってくれるわけじゃにだろう、云々の議論の応酬。 集団的自衛が出て来ているので、最近の話題だし、やはり今でもこういう議論はさんざんされてはいるが、ちょっと出がらしっぽい。 30年も前、いやもっと前なんだろうか。九条があるから日本は安全という神話がまかり通っていた時代にこの本が出たなら、まだ少しはインパクトがあっただろうに。 「永遠の0」「海賊とよばれた男」以来の名著だと言われてもなぁ。 百田さんの言いたいことはわかりますよ。 でもこの二冊と一緒にして欲しくないなぁ。 あれらは書くに至るまでにどれだけの歳月をかけて取材したのだろう、と思わせられる本だったし、実際に名著だと思う」。 でもこの本なら百田さん、一晩でテレビ見ながらでも書けちゃうんじゃないの? ![]() 10/Mar.2017 輝く夜 百田 尚樹 著
この作家も泣かせる話を書かせたらうまい作家だ。 相変わらず「殉愛」以降、他の書き物はあってもストーリーテラーとしては沈黙のままだが・・、まぁいずれは書いてくれるんだろう。 これだけのストーリーテラーが沈黙のままでは、もったいなさすぎる。 この本、クリスマスイブの晩が舞台のとびっきりの話ばかりを集めた短編集。 「魔法の万年筆」「猫」「ケーキ」「タクシー」「サンタクロース」の五篇。 共通しているのは、皆、心根の優しい人で、真っ正直に生きていている。 決して恵まれているわけではなく、結婚とも縁がない。 ・イブの日にリストラを言い渡される女性。 ・イブの日にデートなどは無関係で派遣先の会社で残業をする女性。 ・まだまだ若いのに、癌が全身に転移して、余命いくばくもないことを知った若い女性。 五篇の中でもその象徴のような作品が、初っ端の「魔法の万年筆」だろうか。 イブの日にリストラを言い渡された彼女に一人のホームレスが目にとまる。 ホームレスは「三日間、何も食べていません」と目の前に白墨で書いている。 彼女はとっさに千円札を出そうとして辞め、ハンバガーショップでハンバーグを買って来て、ホームレスに差し出し尚且つ、五百円玉も傍らに置いて行く。 なりが悪くては、店も売ってくれないだろうという配慮。 そんな彼女にホームレスから、願いを書けば三つだけその願いが叶うと言われて渡された、鉛筆。 それで彼女の書いた願いのなんと慎ましい事。 そんな彼女だからこそ、サンタこと百田氏は飛びっきりのプレゼントを用意する。 長編もいいけど短編もいいですね。 また新たな百田ワールド、期待してますよ。 25/Feb.2016 風の中のマリア 百田 尚樹 著
オオススメバチのワーカーは幼虫からさなぎになり、さなぎから成虫になって飛びまわる様になって約30日で寿命を迎える。 彼らは昆虫の世界では最強の兵士で、イナゴを丸め肉団子にし、アシナガバチを肉団子にし、コガネムシを肉団子にする。 まさに狩りを行うのだ。 帝国の繁栄のために戦う戦士達。 その帝国も帝国の女王の引退、次世代の女王たちの誕生を迎えるとその繁栄を終焉させ、新たな女王たちがまた新天地で帝国を築く。 壮大な物語のようで、実はSF的なフィクションではない。 描かれるのはオオススメバチの生き様そのままなのだ。 西洋ミツバチはオオススメバチの餌食となるが、日本に昔から住んでいた日本ミツバチはオオススメバチの撃退法を知っていたりする。 逆に日本ミツバチは西洋ミツバチに襲撃されると全く成すすべもなく無抵抗のまま死に絶えてしまう。 いにしえの時代からの遺伝情報に西洋ミツバチなどは存在しないからなのだろうが、全くもって摩訶不思議。 彼らがゲノムがどうの、と話しだすあたりはかなり面食らうが、彼らが会話したり、思考したりするところ、そういうところ以外の虫達の生態についてはほとんどノンフィクションと言っても過言ではないのだろう。 作者はオオススメバチをはじめとする昆虫の生態をかなり詳細に調べ込んでいる。 なんとも不思議で斬新な作品なのだ。 14/Jul.2014 幻庵(上)(下) 百田 尚樹 著
百田尚樹氏の熱烈なファンだったとしても、囲碁の経験が全く無かった場合、その方々はこの本を楽しめただろうか。 この本、江戸時代のプロの碁打ちの物語で、結構史実に忠実に書かれているように思えるので、どこからが百田氏の創作なのかは良くわからない。 たぶん、囲碁の専門用語について来れなくなった読者は上巻で脱落するだろう。 だが、この本は下巻からが、俄然おもしろくなっていく。 幻庵と名乗る前の井上因碩(いんせき)と本因坊丈和(じょうわ)との凄まじい戦い。 井上因碩は孫子の兵法を用いて、策を弄しすぎたために後に後悔する。 それにしても囲碁の戦いを文章で綴ることはかなり至難の業だろう。 読んでいるこちらも棋譜を見せて欲しくなる。 棋譜はポイントポイントで登場するのだが、打ち掛けとなったその一手のみ、もしくは、これが改心の一手と言われる一手のみにマークをつけられてもなぁ。 棋譜に@から順に全ての順を書いてくれとは言わないが、その直前の数手ぐらい記してもらわないと、その一手の凄味がアマチュア碁しか知らない人間には、なかなか伝わりづらい。 この本を書くにあたっては、百田氏、囲碁そのものや囲碁の古文献も調べまくっただろうし、現役のプロ棋士にもさんざん話を聞きに行ったことだろう。 ただ、その努力が万人に受け入れられたのかどうかは、疑わしい。 江戸時代の命がけの囲碁であったとしても、その一部の棋譜から面白さを感じ取れるのは、アマチュアでもかなり上段者じゃないんだろうか。 まぁ、別の読み方みあっただろうけど。 ![]() 05/Jun.2017
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