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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Jun.2019
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兄妹パズル 石井睦美
教団X 中村文則
凶犯 張平
虚人のすすめ 康 芳夫
機械男 マックス・バリー
キケン 有川浩
騎士団長殺し 村上春樹
傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 夏井睦
傷物語 西尾 維新
帰宅部ボーイズ はらだ みずき
北の大地から 竹田津 実
北門の狼 (重蔵始末6) 逢坂 剛
鬼畜の家 深木章子
吉祥寺の朝比奈くん  中田永一
きつねのつき 北野勇作
きつねのはなし  森見登美彦
キノの旅 時雨沢恵一
希望荘 宮部みゆき
きみとぼくが壊した世界 西尾 維新
君にしか聞こえない 乙一
君の膵臓を食べたい 住野 よる
キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか 北尾トロ
キラキラ共和国 小川 糸
きりきり舞い  諸田玲子
キリング・サークル アンドリュー パイパー
金魚生活 楊逸
錦繍 宮本輝
近代オリンピックのヒーローとヒロイン 池井 優
漁港の肉子ちゃん 西 加奈子
偽装農家 神門 善久
銀二貫 高田 郁
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兄妹パズル 石井睦美

よくなんでもない題材でこれだけの一冊書けるなぁ、と感心してしまったのでした。
兄二人と妹一人の三人兄妹。
その兄の内一人が実の兄では無く実は従兄弟でした。
と、まぁありていに言えばそれだけの話。

それだけの題材でありながら、なかなかに楽しい。
勉強が出来て、教えるのも上手で、顔立ちも美人の母親似で容姿端麗、いつでも沈着冷静なコウ兄。
明るいのが取りえで、ことサッカーに関しては中学時代から、将来はJリーガーも夢ではない、と言われるジュン兄、そして妹の亜実。
その「亜」という字に「醜い」という意味があることはこの本で初めて知った。

彼ら三人兄妹の仲のいいこと。
兄弟は人生最初の敵などと言う人もいるほどに世の兄弟姉妹はそんなに仲の良いケースばかりではない。

食事のあとに必ず「おいしい?」と尋ねる母。
料理の腕を気にしているのではなく、「おいしい」と答えさえすれば、この子は元気なんだ、という基準値なのだとか。
この鷹揚な母親の存在があればこそ、こんな良い兄妹が育ったのかもしれない。

唯一影が薄いのが父親である。
佐藤浩一に似ているともあったっけ。母親似でなく父親似でなのがこの主人公の妹の唯一の悩みの種だ。

影が薄い父のようで、実はやはりかなり存在感がある。
兄のうちの一人が出奔してしまった時、月に一度はがきが一枚届くのだが、そのはがきの内容たるや「元気です」 のたったの四文字。
それを見た父は一言。

「丸くて太し心配せずともよし」

騒ぐでも怒るでもなく平然としている。

こういう雰囲気、いいですね。
「心配せずともよし」と言われても心配してしまうのが母親というものなのだろう。
当然、置いて行ってしまっているに決まっている携帯電話に何度も電話をかける。

妹ともう一人の兄はその携帯の充電が切れてしまわないようにこっそりと充電していたりする。
なんとも心根が優しいのだ。

ストーリーそのものに奇抜なものや、おぉっと言わせるような展開があるわけではない。冒険譚があるわけでもない。

それでも物足らなさなどはこれっぽっちも無い。

いやぁ、ほんとうに心暖まるいい兄妹のお話でした。




兄妹パズル 石井睦美著


11/Feb.2011
教団X 中村文則

外部から見れば、教団と、思われている団体が二つ登場する。

一つは実は教団でもなんでもない。

松尾という話好きの爺さんが、月に一回講話を開くのだが、そこに集まった人たちの一部が教祖と勘違いしただけの集まり。

冒頭でいくつか紹介される、この松尾という人の講話が、割りと興味深い。

意識(私)こうしたい、と思う前に脳からの指令が出ている、という類の話、なかなか興味深い。
ある決断をして意思を持ったとしても、それが事前に決められていることをなぞっているだけ、などということがあれば確かに意思など持たなくても良いことになってしまう。

ブッダは物理学の知識無くしてそのことを知っていた?

果たしてそうか。
これって、テニスプレーヤーや卓球の選手など、右へ動こうと意識が働いてから反応したのでは遅すぎる。その前に反射的に動いている、とかそういうことと似ているような気もするが、本当のところはわからない。

この松尾の爺さん、知識が豊富で、宇宙の始まり・ビッグバンから、分子・原子・素粒子と言った物理学の知識を披露してみたりするのだが、その話が結局繋がっていて、人間の細胞なんてどんどん変わっていくんだから、原子レベルで考えたら、人類、いや人類どころか、他の生物もいや生物以外だって皆同じ・・・なーんてところに落ち着いたりする。

この本、一人一人の話が長いので、結構分厚い本になっている。
寝ながら、片手で読んでいたら、手が痛くなってくるほどに。そのまま眠ってしまって、本で顔面強打することしばしばだ。

もう一つの教団は、この松尾の爺さんを詐欺で騙して、講話を聴きに来た連中の中から、高学歴の者だけを引っこ抜いたと言われているが、その実態はというと、高層マンション一棟そのものを教団施設にしてしまって、その中で行われるのが、SEXの嵐。

初入会者のところへは、毎日日替りで美人がバスタオル一枚で現れ、SEXし放題で骨抜きにされる、というような教団で、この教祖がまた「教え」など微塵も無い、変態人間なのにもかかわらず、熱狂的な信者に囲まれる。

根暗で女性にもてたことに無い男が入信したなら、当面は天国だろう。
だが、ただそれだけじゃないのか?
そこから先に何があるのか。皆目わからない。

この教団、マンション一棟を買うだけの初期費用は詐欺やらで得たにしても、その後どうやって維持してられるんだ。
どうやって皆が食えるだけ収入を得ているのか皆目わからないが、宗教なんて案外そうなのかもしれない。

この教団内の過激派がテレビ局を占拠し、携帯電話の着信を起爆剤に日本のあちらこちらに爆弾をしかけた、と脅迫する。
携帯電話の番号をテレビで言ってしまえば、視聴者の誰かが電話するだろう。彼らは自らの手を染めなくても視聴者が爆破してくれる。その脅迫の取引条件が、この教団施設を独立国のような、特区にすること。
このあたりが、この話の最もクライマックスか。


それにしてもこの作者、名指しこそしていないが、よほど安倍政権が嫌いなんだろうな、と思われる表現があちらこちらに散りばめらえてられている。

まぁ、いろいろと突っ込みどころ満載ながら、これだけ重たい(重量の方)本を最後まで読ませるのはやはり作者の筆力のなせる技か。



教団X  中村文則著
24/Jan.2017
凶犯 張平

他にも読みかけの本があったのだが、これを読みだすともう他の本などはどうでも良くなってしまった。
しばらくの間、他の本を開いてみても、なんだか読む気がしない。
それだけの後味を残してくれる本なのだ。

それにしてもなんという凄まじい光景なんだろう。

身体の至る所、致命傷を負い、顔も人相が変わってしまうほどにボコボコにされ、片足は元々義足、もう一本の足目掛けて大石を叩き付けられ、ほぼ完治不能。
腕の骨も折られて、全身から出血多量状態、歩くのは到底無理な状態なのに立ち上がって歩いてその場を立ち去り、自宅のある山を這って登り、ライフル銃を持つや、再度、山を這っておりて、自分をそういう目に合わせるための元凶となった四兄弟をたったの四発で仕留める。

その状況から言えば、報復なのだが、話はそんなに単純ではない。

四発を放った男は、元軍人の国有林保護監視員。名を狗子という。
ここへ任命される時に、人は狗子を羨ましがったという。
着任早々は、近隣の村からの貢物が絶えず、家族では食べきれないほどの食材が届けられる。
山の中を散策した狗子が見た光景は、散々盗伐されてあちらこちら禿げ散らかされた山の姿。
前任者たちは盗伐を見逃す代わりに貢物をもらっていたわけだ。

ここで2年か3年間、要領よく勤め上げれば、一生暮らせるだけの蔵が立つだろう、と言われている。

そう言われても尚、彼は国有林である山林を守ろうとし、盗伐を取り締まる。
自己の利益や一族の利益を内より優先しそうな、あの中国という国に、国の物だから公のものだから命がけで守ろう、とか一生暮らせるだけ財を捨ててまで守ろうという意思のある人の存在にまず驚く。
そんな概念があったことにすら驚く、が、この話、実話を元に書かれているのだという。
狗子は自分の心にやましい行いをしてしまいそうになると、戦争で死んでいった戦友たちの顔がまず頭に浮かぶのだという。

彼が赴任してまだ3か月かそこら。
彼にどれだけおいしいエサをぶら下げても彼が木材の違法伐採、盗伐に目をつぶらないヤツだとわかった瞬間から、村人たちの彼への強烈な嫌がらせが始まる。
もはや、嫌がらせという域ではない。
村に一つしかない井戸を使わせない。
水汲み場はコンクリで覆われ、見張り役を立てる。
彼が山の中で湧水の水源を見つけ、そこから水を調達しようとすると、翌日にはそこに動物の糞尿と蛆虫がばら撒かれる。
山の中にポツンと住んでいるはずが、監視されている。
水も食料もまともに調達できなければ、餓死するか、あきらめて出て行くしかない。
嫌がらせではなく、強制追い出し。
それを村人たちに指揮命令していたのが、四兄弟と呼ばれる悪党。
一番上でも30代半ばだというのに良くそれだけの実権を握れたものだ。
暴力という力で脅し、得た金という力で言う事を聞かせ、村はもとよりその上の郷やもっと上の組織へのコネという力で得た財をさらに膨らませ、その圧倒的な力で村を支配する。
彼らに逆らって、生き延びた人間少なくともこの村には居ない。

だからこそ、この四兄弟を仕留めなければならなかった。
復讐のためなどではない。
この国のためにも村の為にも四兄弟をのさばらせてはいけない。
そのために狗子は血みどろになりながらも、歩けず這ってでも戻って彼らを討ち果たそうとする。

この四兄弟の様なのは極端にしても多かれ少なかれ、類似の実態があるのだろう。
このような作家の登場にまず驚くが、それよりも何よりも、良くこれが無事に出版されたものだ。

しばらく前に出版されていたのを最近知ったが、少なくとも今年読んだ本の中で最も心に残る一冊をあげろと言われたらダントツ一位だろう。


凶犯  張平著  荒岡 啓子 (翻訳)
10/Apr.2017
虚人のすすめ 康 芳夫

一時持て囃されたITバブルにIT寵児。
彼らの大半は先端技術者集団でも何でもなく、既に完成した企業を買収する単なる買収屋だった。
大量の金に物を言わせての買収と売却、所謂虚業だったわけだ。

こういう虚業群が実態経済を潰しかねないほどに、肥大化してしまっているのが現代。
リーマンブラザーズなどという虚業企業が潰れただけで世界中に経済危機をもたらしてしまう。
作者はあえてそんな虚業家たちと立場を異にするために自ら「虚人」と名乗る。

彼は、東大を卒業していながら官僚を目指すでも無ければ、大企業へ入るでもなく、研究者の道を歩むでもなく、呼び屋という商売に身を投ずる。

彼の師匠は未だ国交の無かった当時のソ連からボリショイサーカスを日本へ呼んで大成功をおさめた人、他にもジャズプレイヤーを招聘したり、世界最大のシャガール展を開催したりするのだが、赤字が膨らんで会社は倒産してしまう。

その人から学んだ彼は大学を卒業してまだ二年やそこらで自分で呼び屋稼業を始める。

虚とはすなわち何もない状態。
全くのゼロというものを認識している人。

実際にこの方、バックに大物を持つわけでもなんでもなく、自分の名前と素の存在だけで勝負をしている。

ある日、彼は世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリを招聘しようと思いつく。
彼とモハメド・アリの間には何の繋がりも、その繋がりの片鱗さえないのに、である。
ボクシング界に知り合いがいるわけでもなく、アメリカの有力者にコネクションがあるわけでもない。
人は無謀だと思うところだが、彼は無謀だと思わない。
この広い世界の中で全く知らない誰か一人の人に近づくには、何人の人を間に介さなければなさないか。
その答えはたった6人なのだという「六次の隔たり」というアメリカの心理学者の理論があるそうだ。
相手が大国の大統領だったとしてもたったの六人を介すればお近づきになれるのだ、ということになる。
この人はそれを証明してしまう。
そのためにはまず、自らイスラム教徒になってしまう。
日本に住む華僑のムスリムに近づき、マレーシアのイスラム教指導者を紹介してもらい、その人からアメリカのムスリムリーダーの一人に紹介状を書いてもらい、さらにその人を経由してモハメド・アリのマネージャーにお近づきになる。

言葉で書いてしまえばいとも容易いことのようになってしまうが、それを実現させるにはとんでもないエネルギーだろう。
単に近づいたからと言って簡単に指導者を紹介してくれるはずがない。
その紹介者から絶対の信頼を勝ち得るまでにイスラム教を勉強し、自分を売り込む努力は並大抵のものであろうはずがない。

そんなことを経て、長い年月をかけて相手の信頼を得、とうとうモハメド・アリの招聘を実現させてしまう。
「六次の隔たり」理論は彼のためにある理論なのではないだろうか。

彼は虚人は本能の強さで生きるのだ、という。
人間極限状態に追い込まれたら、精神的な強さやタフなどと言う次元ではなく本能で行動するだろう、と。
最終的に本能で感じ動く人間は強い、と。

彼は、お金儲けを夢見るなどという連中を唾棄する。
大リーグで活躍する選手を見て、その年棒が何億、何十億を羨む人をみて可哀そうだと感じる。
売上なん100億なん1000億を達成することが夢だという連中を憐れむ。
彼にとってはお金は「虚」でしかない。
お金という虚を実体化している人はそれを失うことを恐れるのだとバッサリ。
彼にとっては100億も一兆も0も同じ。
虚=ゼロなのだから、お金を失っても自分を見失うことはない、と。

まさに偉大な虚人である。

虚人のすすめ 康 芳夫(著) 集英社


05/Sep.2011
機械男 マックス・バリー

生身の身体より機械を愛してしまった男。

会社の研究室に勤める研究者の物語。

ある時、職場での事故がきっかけで片足を失ってしまう。

そして義足をつけたのがそもそものきっかけ。

彼は、こんなに科学が進歩しているのになぜ世の中にははこんな義足しかないんだ、と憤りを覚え、自ら義足を作成してしまう。
それはもはや義足という域をはるかに超えていて、モーターの付いた自走式のもの。

彼の科学者としての探究心はそこでは止まらない。

片足だけ優秀でも仕方がないじゃないか、ともう一本の生身の脚も機械かするべく切断してし、やがて手も・・・・。

主人公のこの一連の探究心が、今度は会社の闘志に火をつけてしまう。

彼のプロジェクトに参画させるべく人員を増やし、予算を増やし・・・。

やがては・・・・。


似たような話はアメリカ映画にはいくつかある。

「ロボコップ」などは本人の意に反して、「アイアンマン」などは自らの意思で・・。

だがどれともちょっと異質なのは、この主人公の性格だろうか。

自ら作るものが生身の身体よりも優れたものだと疑わない。
自らの身体を削ってでも機械化する方を選ぶ。

彼の最終到達地点はなんだったのだろう。

最終到達地点は生無き生なのでは無かっただろうか。



機械男 マックス・バリー 著(Max Barry)  鈴木 恵 (訳)


15/Oct.2013
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