読み物あれこれ(読み物エッセイです)
読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
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「世界征服」は可能か? 岡田斗司夫 著
ゴミ問題の次にいきなり「世界征服」って、どんなサイトなんだと思われてしまいそうですが、ジャンル問わずが方針なのでこんなのも有りでしょう。 かつての勧善懲悪の子供番組の中に登場する悪役達が良く口にするのが、我々悪の組織が世界征服を成し遂げるのだ、のような発言。 必ず正義の味方が現われて、悪の組織を毎回退治して行くのだが、著者にはそのワンパターンが気に食わない。 悪の組織の方を応援してしまう。 お歳を召した方には水戸黄門が毎度同じパターンで印籠を出す、というあのパターン、完璧にワンパターンなのですが、それが返って安心出来て毎回見てしまう、などという話を聞いたことがありますが、著者はそんなお歳ではないのでしょう。 また、著者は「世界征服」を目標にした勧善懲悪ものが散々ありながら、「世界征服」をして何をするのか、その先の展望を出しているものがほとんどない事を嘆きます。 政権交代をすることが目標じゃおかしい。政権交代した上で何をするのかが問題だ!って最近よく耳にする現与党側の言い分を思い出してしまった。 で、唯一、その先に何をしたいかを具体的に言っているのはピッコロ大魔王だけなんだそうです。 しかしまぁ、よくそれだけ研究されたものです。 仮面ライダーだ、北斗の拳だ、ぐらいならまだ知名度は高いのでしょうが、「ヤッターマン」だとか「レインボーマン」だとか「バビル二世」だとかって、知っている人は一体でどれだけいるんでしょう。 仮に知っていたってあまりに昔の放映ものなので、ここで触れられるような内容を覚えている人など皆無なのではないでしょうか。 著者にしても同じでしょう。 昔、見た事を記憶に残していてそれをもとに書いているとは思えない。 あんな膨大な量の映像を割りと直近でご覧になられた、ということなのでしょうか。 それだけでも驚いてしまいます。 本ならばまだしも自分のペースで読めばいいでしょうし、ピックアップして読むことも出来るでしょうが、映像となるとそうはいかない。 映像が流れる膨大な時間を映像と共に費やさなければならない。 いくらその道の専門だとしても、まずそこに感心してしまいます。 そして、著者が投げかけるのは、本当に世界征服なんて可能なのか、世界征服を企てることは果たして悪なのか、そもそも悪とはなんなのか・・・という問いかけ。 はたまた「世界征服」を実行に移す前にどれだけの資金が必要なのか、継ぎ込まれる予算たるや天文学的な金額になるはず、とその根拠を並べておらます。 そんな、だって子供向けの作り話にそんなに真剣に取り組まれても・・などと言うのはシロウトの浅はかな考えなのでしょうね。 最近のものがないところを見ると今ではそんな昔のような単純な勧善懲悪ものでは誰も見てくれないということなのでしょう。 まぁ「世界征服」などというものをちゃんと分析すると、ほーらこんなに無理があるんだよ、ということになるのでしょう。 そんな力づくでなんてことは有りえないでしょうが、もしそんなことを真面目に考えている組織や人間がいたら、どのような選択肢をとるのでしょうね。 人を動かすには当然人件費がかかりますが、著者も何度も本の中で触れておられるオウムのような組織は洗脳という手段を用いました。 洗脳された人間は人件費がかかるどころか逆に稼いで来て貢いでくれる。 あの組織は「世界征服」を目指していたのかもしれません。 日本どころかロシアにも信者が居たというし。 もう一つは、村上龍が「愛と幻想のファシズム」で書いた鈴原冬二のような私兵を持った全体主義者の存在でしょうか。 支配される方が楽なんだ、という意表をついたあの作品。 自民もいやだけど民主もね、というこの時期だけにもの凄いカリスマ性を持った人間が現われたら、ひょっとして、と考えなくもない。 それでもいくら熱烈な信者を抱えた宗教にしたって、無宗教な国ならいざ知らず、自爆テロも辞さずというイスラムシーア派やら、他の宗教を信ずる人がほいほいとついて来るとは到底考えられず、世界までは無理でしょうし、どれだけカリスマ性を持った人間だって、せいぜい日本どまりで、「愛と幻想のファシズム」だって巨大なアメリカの組織を前にこれからどうするんだろう、というところで物語は終わっていたと思う。 まぁ、そんな選択肢をあれこれ考えてみることもないのでしょう。 著者にしてみれば、いくら勧善懲悪ものだからといって、手を抜かずもっと深く考えて作れよ、ということなのかもしれないですし。 この著者、芸術大学の客員教授なのだそうです。 どんな授業をしているのでしょうね。 一度、聴講してみたいものです。 アニメ作家を多く排出する芸術大学にはこの本のような授業が有用なのかもしれませんね。 この本の中にもアメリカの南北戦争についてのくだりや、織田信長の評価などは別の意味で勉強になりますし。 論文問題の問いはまさに「世界征服は可能か?」だったりして。 01/Aug.2009
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