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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
May.2017
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苦役列車 西村賢太
薬指の標本 小川洋子
くまちゃん 角田光代
鞍馬天狗敗れず 大佛次郎
黒い看護婦 森功
黒書院の六兵衛 浅田次郎
Good Luck アレックス・ロビラ & フェルナンド・トリアス・デ・ペス
グラスホッパー 伊坂幸太郎
グリード 真山 仁
グローバル恐慌―金融暴走時代の果てに 浜矩子
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苦役列車 西村賢太

芥川賞の選考委員も粋なはからいをするもんだ。
2011年1月の芥川賞受賞作にはこの「苦役列車」と朝吹真理子氏の「きことわ」がW受賞。
全く正反対と思える作品。作者。
方や、文学一家に育った才媛。そう言われるのは本人は本意ではないかもしれないが、世間はそう見る。
方や中卒で日雇い仕事を続けて来た男の独白。

「きことわ」に関しては、「精緻な文章」だとか、「高い完成度」だとかという褒め言葉が、数多く聞かれる。
なるほど、こういう作品が芥川賞を取るんだろうな、といかにもプロを喜ばせる文体とはこういうものなのだろうな、と思いつつ、さほどに文学通でもないこちらにとっては、あまりに退屈で面白みのない内容に少々辟易とさせられた。
敢えて言うなら20代の女性がよく40代の女性の心境がわかるのものだなぁ、と感心したぐらいのことだろうか。
前作の「流跡」の奇妙さの方がまだ少しは楽しめる。

それに比べてこの「苦役列車」と来たらどうだ。
よくぞ選考委員は芥川賞に推してくれたもんだ。

むさい臭いが読んでいる側にまで漂って来るような一冊である。
小学生の頃に父親が性犯罪を犯し、近所に住んで居られなくなり、母親と転居し、姓も変わる。
以来、友達らしい友達は持たず、中学もろくすっぽ行かず、中卒にして日雇い人足業に有りつく。
これと言って目標があるわけではなく、貯金も無く、少々小銭が溜まったら、フーゾクで使い果たし、その日の酒とその日のメシに有りつけばそれで良く、溜まった金を持たないので、家賃はすぐに滞納し、そして追い出され、また新たな住みかを見つけ、そこもまた追い出されの連続。

この手の本は嫌いな人からはとことん嫌われそうな本だな。

それにしてもまぁ、どうしてこうも自虐的なんだろう。
自らをゴキブリとまで言ったりして。

日雇い人足とはいえ、汗水垂らして働く喜びの一つもあっただろうに。


さて、今回の未曽有の大震災。

こんな時にこそ、主人公君のような人の出番なのではないだろうか。
主人公君がコンプレックスを抱く、エリートやホワイトカラーなど未曽有の災害のさ中でどれほどの役にも立とうか。

どこで寝ることも厭わず、肉体を資本に生きて来た19歳。

東北地方の復興に是非ともそのたくましさを発揮してくれ。


こりゃ感想でもなんでもなくなってしまった。



苦役列車  西村賢太 著 第144回芥川賞授賞作


24/Mar.2011
薬指の標本 小川洋子

読んだあと、奇妙で怖い夢を見たような気分になりました。

ざっとあらすじ。
主人公の女性はソーダ工場で働いていましたが、あるとき機械に指を挟まれて薬指の一部を失います。
切断された肉片は機械に飲み込まれ、流れた血がソーダを桃色に染めます。
女性はソーダ工場を辞め、新しい土地で標本室の受付の仕事に出会います。
仕事は簡単なもので、持ち込まれるものがどんなものであっても、
標本にできますと答え、それを受け取るというもの。
標本を作るのは一人の標本技術士。
標本技術士の不思議な魅力に女性はいつの間にか飲み込まれていって・・・。

標本にして欲しいと持ち込まれるものは様々。
多くは辛い思い出が残していった残骸たちです。
できた標本は標本室に保管され、依頼者が見に来ることはほとんどありません。
大抵の依頼者は標本になったことで安心して、先へ歩みだします。

どんなものでも標本にする標本技術士がとても不気味。
主人公の女性の薬指を興味深く眺め、失われた一片に関心を示します。
標本技術士の異様な雰囲気は、生きているものよりも失われたものへの関心が強いように思われるからかもしれません。

私は体の一部を失った事はありませんが、
それなりに元には戻らないであろうやけどをしたことがあります。
今でも傷を見ると、若干残念な気分になりますが、
戻らないものにいつまでも心を支配されるわけにはいかないので、
忘れるよう気持ちを動かします。
標本技術士は、毎日のように依頼者が忘れたいと願った傷と対面して、
それを自分の周りの標本室に保管し続けているわけですから、
不気味なのも仕方ないかもしれません。

結末はちょっと青髭的で、特に納得したりはっきりした落ちがあったりするわけではないのですが、不思議にすとんとお腹におさまる物語です。
悪い夢を見たような、でも眼ははっきり覚めていたような感覚。
薄暗く閉鎖的な空間でありながら、その情景が鮮やかに眼に浮かぶようなのも不思議です。

この「薬指の標本」はフランスで映画化されました。
見ようかなとも思ったのですが、
私の頭の中に浮かんだ「薬指の標本」の情景はそのままにしておきたかったのでまだ見ていません。

原作には比較的忠実な映画だそうなので、
フランスから見た「薬指の標本」の情景を見るのもおもしろいかもしれません。


薬指の標本 小川洋子著


14/Jan.2011
くまちゃん 角田光代

短編集で、全ての物語で主人公が振られます。
そして振った相手が次の物語の主人公となり、別の人に振られます。
そんな変わったリレーでつながっていく一冊。

「くまちゃん」という表題作では、主人公の苑子が、偶然出会った、いつもくまのTシャツを着ている男の子に翻弄され、意味もわからず振られる話です。
思っていたような仕事ができず、つまらない毎日に不満を持つ苑子。
崇拝するアーティストに近づこうという夢があり、それを追い続けようとするくまちゃん。
くまちゃんは苑子に、「つまらないと思うことをしてはいけないよ。」と言います。
そんなくまちゃんを苑子はうらやましく思います。

実際は相手のようになりたいわけでも、相手を理解しているわけでもないけれど、自分と違う何かが、自分の生活を少し輝かせてくれるような気がするのかもしれません。

そして意味もわからぬまま振られてから数年後。
苑子は少しずつやりたい仕事ができるようになり、出張した先の海外の街で、懐かしのくまのTシャツに出会います。忘れかけていた「くまちゃん」という男の子を思い出し、側にいたときよりもくまちゃんの気持ちが理解できると感じます。

次の物語「アイドル」では、この意味不明のくまちゃんが主人公。
20代も後半になり、こんなんでいいのだろうかと思い始めたくまちゃんは、自分と同じような考え方で、でももっとしっかり生きている女性に恋をします。
初めてまともに人を好きになって、今まで適当に女の子と付き合ってきたことを振り返るくまちゃん。
苑子のことは、名前がもう思い出せないけど冷蔵庫の中身が充実していたという程度に振り返っています。

こんなに振った立場と振られた立場で、思いや見解が違うのかと思うと面白く、ちょっとせつないような気もしました。

そしてくまちゃんも思いがけぬ理由で振られてしまうのですが、前へしっかり進んでいく姿がすがすがしく、かつての意味不明のくまちゃんが、なかなかいい男になっているように感じました。

こんな風に、次々と振り振られの物語が続いていきます。
振られる人が主人公なので、振った人の気持ちについてはあまり触れられていないのですが、次の物語を読むとその気持ちがわかっていくというのが面白いところです。

角田光代さんのあとがきに、仕事と恋愛が複雑に絡み合っているときの恋愛を描きたかったとありました。そして「ふられ小説」を書きたかったと。

物語には、憧れの仕事をしている人を好きになったり、同じ夢を追う人を好きになったり、仕事が成功したことでうまく人を好きになれなかったり、様々な人が登場します。
そして共通していることは、それぞれがもしその仕事をしていなかったら、その恋愛は存在していないのだろうなということ。
仕事と恋愛が複雑に絡み合っていると意識したことがなかっただけに、目からウロコでした。

ふられ小説を書きたかったというのはなぜなのかと考えてみました。
物語を読んでいると、振られた方が先へ進みやすいというは伝わってきました。
振らてしまってはどうしようもないから、散々悲しんだら立ち直る以外することない。とてもシンプルで明白な状況だと思いました。
そして、立ち直れるとそれが自信になります。自分に対しての自信だったり、そんな状況でも続けてきた仕事に対してであったり。

あとがきには、角田さんにとって、仕事というものが確固たる何かになってしまったから、もうそのような恋愛はできないとも書いてありました。

恋愛と仕事が複雑に絡んでいるとも感じていなかった私には、到底たどりつかないであろう角田さんの境地。
世にいる社会人の恋愛というものはこんなものだったのか、と勉強になった一冊でした。



くまちゃん 角田光代著


29/Nov.2011
鞍馬天狗敗れず 大佛次郎

何故、今 鞍馬天狗なのか。
大佛次郎という明治生まれで、40年近く前に亡くなった方の本が、しかも鞍馬天狗なら連載ものだろうに何故この一冊だけがこの近年になって出版されたのか。

この本は生麦事件の騒動直後が舞台となっている。
生麦事件とは日本史の復習になってしまうかもしれないが、幕末に薩摩の島津久光の行列に騎馬の英国人が闖入したのを薩摩藩士が切って捨て、それが元で外交問題に発展し、英国は40万ドルという法外の賠償金を幕府に求める。
肝心の薩摩はそれは「岡野新助」という架空の人物を仕立てあげ、彼がやったことで、行方不明だからと幕府を無視。
幕府はとうとうその支払いに応じてしまう。

そんな背景の中のお話。
鞍馬天狗は自分が岡野新助だと名乗って、他の英国商人がアヘンを扱っているのを知り、その商人を樽に詰めて海に浮かべてしまう。
その商人を「黒ひげ危機一発」の黒ひげオヤジよろしく樽から首だけ出した状態で身動きの取れない憐れな姿にした上で、アヘンを扱っていた証拠品を岸辺に並べるばかりか、幕府の現地を差配する外国掛りの役人にも送りつける。

これで英国から言われる一方ではなく、向こうへも抗議を呈する下準備をしてあげたわけだ。

岡野新助を名乗る天狗が外国掛りの責任者に言う。
何故、抗議をせぬのか、と。
アヘンを扱っていたのは生麦で切られたのと同じ英国商人だぞ、と。
相手に直面している責任者が臆病風に吹かれて、一歩事を誤ったら、日本の歴史上取り返しがつかぬぞ、と。
信念を持て!
現状を無難に乗り切ることを考えずに日本の末始終を考えて行動しろ、と。
一度、膝を折れば何度も折ることを繰り返さざるを得なくなるぞ、と。
如何なる場合にも国の威厳を損じるな、と。
命を叩きつけるぐらいのつもりで談判してみよ、と。
さすれば必ずその至誠は人を動かす。
敵の軍艦を恐れるな。大したことは敵も出来ぬ。
大砲をぶっ放したところで手持ちの砲弾が尽きればお終い。
上陸戦どころか上陸すら出来ないはず。
恐れるには至らない、と。


ところがその役人は英国へ抗議するどころか、反対に岡野新助を名乗る男を捕えようと懸命になる。


まるで昨年秋の事件と似ているではないか。
尖閣での一連の事件。
あろうことか、首脳会談を開きたいばかりに尖閣ビデオを流出させた国士を捕えようとし、相手に抗議をするどころか、肝心の首脳会談では手持ちのメモを読むのに精いっぱいで始終俯いたまま、相手の顔を見ることすら出来なかった、もはや外交とも言えぬ国の恥を世界にさらしてしまったあの一連。
40万ドルで結着させた幕府どころの話じゃない。
その恥ずべき人もようやく辞めるハラを決めたようだが、あれほどひどいことはないにせよ、彼を総理大臣にと投じた同志の誰かが代わりを務めるわけだ。
まぁ当分、期待するには当たらない。


むろん、大佛が生存していて今の民主党政権のうすら寒さを見て書いたわけではもちろんない。
もっとはるか以前に書かれている。

ただ、今これだけを引っ張り出して出版した側には何らかの意図があっただろう。


上の天狗の現地責任者に対する物言い、何かまるで櫻井よしこさんが民主党政権に一言ブッっているかのようだ。
いやあの方々の政権じゃ、さすがの櫻井さんだってあきれてモノ申す価値にも至ってないか。

この本を出版したのは丁度、前政権が誕生した頃。
だから、何か意図があったとしてももっと前の政権に言いたかったはずで、思い当たるのは、あの何事にも他人事の言い方をしていた福田何某か。

洞爺湖サミット中国の毒入りギョウザの一連対応に関しても、チベット問題に関しても何ら抗議はおろかコメントすらせず、温暖化対策をしない国相手に日本の温暖化対策を約し、この期に及んでまだODAだの、と約すあの無責任他人事総理あたりの時にカチンと来たのではないだろうか。

この手のことは前政権あたりからもう手の付けられないほどにひどいことになって行くのだが・・。

大佛次郎が存命なら、もはや呆れてモノなど書けぬと言い出しかねない。

元へ戻すが、「鞍馬天狗敗れず」というタイトルながら、結局この物語で天狗は「勝ち」は決してしていない。
負けに近いが「敗れず」だった、ということだ。

どのあたりを持って「負け」なのかはさておき、せめて「敗れず」であって欲しいものである。


鞍馬天狗敗れず  大佛次郎 著 大佛次郎セレクション


12/Aug.2011
黒い看護婦 森功
「看護婦」ちゅう言葉はもうそろそろ死語になってまうんやろうな。
今や看護師さんや。
「婦長さん」ちゅう呼称も無くなって「師長さん」やて。
「しちょう」で漢字変換でも出てけーへんがな。
師長ってなんか軍隊の師団長とかを連想させてくれよる。

これも皆、男女雇用均等法のなせる技かいな。
そやけどそないに安易に日本語を変えるべきやないと思うなぁ。

保健婦は保険師、助産婦は助産師かいな。
なんでも師つけたらええちゅうもんやないやろうに。
師とは教師、先生のことやで。

まぁそれはこっちゃへおいといて。
この本のタイトルはあくまでも「看護婦」やないとこの話が伝わらんやろうな。
この拙い文章もタイトルに準じて看護師やのうて看護婦ちゅう言葉を使わせてもらうで。女4人の犯行やし、それも看護婦としての知識を利用しての犯行や。
「黒い看護師」やったら男を連想してまう。

主婦4人による犯行ちゅうと桐野夏生の『OUT』を連想してまうけど、あれは殺人事件と違て、遺体処理事業みたいな話やった。
この「黒い看護師」は平成14年に発覚した「福岡の看護婦4人組による連続保険金殺人事件」のノンフィクションや。

事実は小説よりはるかにどろどろとしてるわ。

もう新聞、テレビでわんさかと猟奇殺人事件のニュースが飛び交ってるから、こんな事件覚えている人はほとんどおらんやろう。

ほんまつい最近の事件かてあまりに多すぎてどれがどれやら、少年の事件もあれば、青年の事件もあるわ、オッサン、オバハンの事件もある。
進学校の生徒やったり新聞配達の兄ちゃんやったり幼児の母親やったり・・数え上げたらキリが無い。

大概は理由もわからん、通り魔的な猟奇殺人。
中には理由らしきもんはあっても、理由にならん様なけったいな事件ばっかしや。

それに比べたら、この看護婦の事件は金目当て、理由はめちゃくちゃ明解や。

それだけは唯一の救いやけど、ほんでも読んでびっくりの世界には違いない。

これを書いた森さんちゅう人は週刊新潮のジャーナリストやったっけ。
元ジャーナリストやったかな。
さすがによう取材してはる。

週刊新潮って以前は必ず木曜日に買うて読んでた頃があった。
その中に「黒い報告書」ちゅう直近の事件実話を元にした話が連載されてたけど、今でもあるんかな。森さんちゅう人はあの頃の「黒い報告書」も担当してはったんちゃうやろか。

さすがに本一冊となると週刊誌の中の数ページとはボリュームがちゃうし、この事件はかなり取材したんやろね。

そやけどジャーナリスト魂かしらんけど、子供の頃の事にページ割きすぎなんとちゃうんかいな。
子供の頃、貧しい暮らしをおくってた、それが事件の引き金?金銭に対する異様な執着心は子供の頃、貧しかったからか?
昭和30年代なんちゅうたらなんぼ高度成長や、もはや戦後は終わった、ちゅうたって今と比べたら日本中が貧しかったんとちゃうんかいな。
確かにその貧しい中でもさらに貧しい人はおったやろ。
そやけどそれは原因でも遠因でもなんでもないやろ。
暮らしの貧しさと心の貧しさは別もんやで。

ちなみに看護婦4名による殺人と言いながら、もうほとんどA子一人の独断場や。
「黒い看護師」の中では、ちゃんと名前書いてあるわ。
実名やろな。
この文章では、全部A子、B子、C子、D子にしとくわ。
同姓同名の人が見たら気分悪いやろうし。

この主犯格のA子が凄まじい。
B子もC子もD子も皆、A子の被害者ちゅうてもおかしない。

A子ちゅうのは人の弱みに付け込む天才やな。
身長150代で体重は60代ってあるからほとんど肥満。
吉本新喜劇やったら相撲取り扱いされるクチや。
その親からしてブスやちゅうとる。

そのブっ細工なA子が口だけは達者やねんな。
人の悩み話イコール儲け話。
B子もC子もD子も看護学校時代からの付き合いや。
中にはもっと前からの同級生も居る。
そやからつるんで犯行に及んだかと言うとさにあらず。

B子もC子もD子もA子に悩みを相談したのが、運の尽き。
B子は男運が悪かったせいでその悩みにのったA子から、先方にはヤクザがついとる。
間に入ったるから、とずんずんそのたくみな言葉にのせられて、金を巻き上げられる。
最初は単純な詐欺やったんが、A子の所へ住まされて、カードも預けろ、通帳も預けろ、言われるままに夜勤・昼勤でせっせと貯めたお金も月々のお給料も全部A子に持っていかれとる。

C子も弱みを知られた段階でOUT!
相手が損害賠償を起こす前になんとか手打ったろ!
また詐欺や。

同じ病院に勤務する新人看護婦が注射で失敗したと聞くと、さっそく
「相手はカンカンや。なんとか話つけたろ」ちゅうて金を巻き上げる。
ここまでやったら、口先八丁の詐欺や。

ところがB子に対してはとことんいってまう。
B子の主人は設計事務所に勤めるクソ真面目な男やのに、
「アイツは浮気しとる」とC子に揺さぶりをかける。
しまいには、殺してまわな、殺されてまうで、と殺人を持ちかける。
手の込んだ事にC子の主人の車に睡眠薬のビンまでおいて「ほれみた事か」と追い討ちをかける。
もうB子は平常心を失ってもうたんやろうな。
A子の持ちかけた殺人計画に載ってまう。

最初は薬や。食べ物の中に薬を混ぜるが、なかなか効いてけーへん。
で、酔っ払わせて更に睡眠薬を飲ませた後、薬物注射。
が、これも失敗。

通常、そこであきらめるやろ、と思いきや、突っ走ってるA子は止められへん。
ほんでも知恵を与えてもうてんのが、看護婦として一番優秀なB子。
B子もC子も一回殺人計画に失敗してんねんやろ。

そのあたりで一回冷静になれんかったんかいな。

二回目決行。
今度は薬やのうて空気の注射や。

全く同じ事をD子にもする。
D子も騙され、D子の亭主も同じく睡眠薬を飲まされた後に注射。

A子は人を恐怖に陥れるために必ず架空の人物を話の中で作り上げる。
バックにヤクザがついてる政治家だの、弁護士だの・・。
A子はその恐怖心もたくみにあやつる。

両方ともちゃんと救急車で病院行って、息を引き取っとる。
部外者は誰も殺人とは思て無いわけや。

そんだけの事をしてもC子もD子も亭主の保険金は全く受け取ってない。
全部A子がせしめとる。
すべて、脅された相手に支払った事になっとる。

A子はこの一連の犯行で2億以上せしめた、ちゅう事になってるけど、本人の懐にはほとんど残ってない。

元々がずさんな生活してるやっちゃ。
サラ金から借りてでも高級エステ行って月に100万も散財するわ、じゃ金なんぞ残る訳がないわな。

ほんでも、保険金を独り占めにした後に限ってマンション購入。
D子の亭主の保険金の時は最上階の一番高額な部屋で、さらに何百万もかけてリフォームして女王の部屋に仕立てるところまでやっとんねん。

同じ看護婦やってたら、給料だけでそんだけの事出来るわけないやろ、って気ぃ付くやろ。普通。

これがこいつらの普通やないところや。
皆、同じマンションに移らされて、A子の子供やら母親やらの面倒までみさされてる。

B子もC子もD子も皆、A子の無償奉仕の家政婦であり女中や。
おやっと、男女雇用均等法やったな。
家政婦も女中もあかんがな。
家政婦はまさか家政師かぃ?
そないに意味も無く「師」ばっかり作っっとったら古文の先生怒って来るやろな。
日本語では諦めてまさかハウスキーパーかぇ?

赤の他人への無償の家政労働奉仕といいながらも事実上奴隷みたいなもんや。
もう殺人に手をそめた以上、もう奴隷にならなしゃーないちゅう事か?

それにしてもこのA子、これだけの計画性があるんやったらこんな手使わんでも大成功してたんとちゃうんか、と思う向きもあるかもしれんが、A子には短期的な計画性はあっても長期的な計画性はゼロ。

贅沢三昧で使うだけ使って手元の金がなくなってサラ金に借金が嵩んだら、詐欺。
得た金で、借金返してまた贅沢三昧。
保険金ともなると額が大きくなるから、借金返すだけやのうて高級マンション購入。
ほんでも金みたいなもんそないな使い方しとったらすぐ無くなるわいな。
また次の犯行計画や。

B子もC子もD子は自分らがA子の詐欺に会うただけやのうて、B子なんぞは実の母親を殺害されるところやった。
実行犯はC子とD子。
もちろんA子の指示である事は言うまでも無い。
B子の母親の家へ行ってD子が注射針をたてようとするんを振り切って母親は助かった。
全く摩訶不思議な事に事ここに及んでもまだ、この犯行が事件性ゼロのままやったちゅうこっちゃ。

B子の母親はさすがに騒いだとしても老齢がわざわいした。
「年寄りやから何かと騒ぐのよ」の一言で片付けられて警察沙汰にはなってない。

これだけの事をしても尚、無傷やったら図にのってまうんやろうかなぁ。

ちょっと目先を変えればええもんをさらにD子から4000万を騙し取ってその上実家の土地まで騙し取とうとしたあたりでやっとD子が亭主殺害は隠した上で叔父に相談する。
叔父はまさかD子が亭主殺害に加担したとは知らずに警察へ。

それでようやく犯行が明るみに出て来る。

逆に言えば、A子がその短絡的思考で無ければ、この犯行は明るみに出ぇへんかったちゅうこっちゃ。

ほんでも福岡あたりの金融業者はワルじゃなかったちゅう事なんやろうな。

この一連の犯行で一番儲けたんは高級エステの経営者と高利でA子に貸し付けてそれを毎回きれいに返済してもうた金融業者やろう。
商売で金を貸す以上、相手の身元はわかっとるやろうし、たかが一看護婦の給与で何千万もの借金をそないにきれいに返されたら、なんぞ裏がある事ぐらい金融業者の嗅覚でわかるやろう。
下手したら騙しているつもりのA子ですら金融業者の意のままに動かされる可能性もあった訳や。

とまぁ事件の全容をかいつまんだつもりがえらい長い文になってもうた。

B子、C子、D子については確かにA子に騙されたかもしれんけど、あまりにも頭が悪い。思考回路は幼稚そのものや。
A子みたいな人間は必ずおるで。
自己本位。
自分中心主義。
行きつくところは詐欺。発展して殺人やけど、どの殺人も直接手を下してない。
みなB子、C子、D子に手を下させとる。
その目的が自分の贅沢であり、見得であり、虚栄や。
世の中、もっと巨悪と言えるもんがあるんかもしれんが、このA子も浅ましさイジマシさは巨悪よりも醜悪そのものや。

この事件のおそろしさは、D子のオジが警察へたれこまない限りは、もしくは犯行を続行せーへん限りは全く事件としても発覚せーへんかったっちゅうところや。

保険金の支払いには保険屋も何の疑いも持たん。
当たり前やわなぁ。
ちゃんと救急車で運ばれて、XXXでお亡くなりになりました、ちゅうんやから。

ちゅうことはやで。
これが氷山の一角やとしたら、世の中なんぼでもこんなんあったりして・・。

人の弱みに付け込んで金を騙し取る、それを立件もせんまま泣き寝入り。
これは山ほどあったとしても看護婦ちゅう専門知識を利用しての殺人、これがわからんままやとしたらこわいもんやで。

殺害された亭主二人。
ヨメはんにそんな意図が有った事なんぞこれっぽっちも疑う事なく、息絶えてもうたわけや。


世間の亭主諸君!
クソ真面目に働いて給料入れてたら安泰、と思てたるやろう。
メシの塩加減にも気ぃつけた方がええかもしれんでぇ。

黒い看護婦 森功 著


22/Sep.2007
    12 >>