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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Jun.2017
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柴 静
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中国メディアの現場は何を伝えようとしているか 柴 静

結構、以外だった。

これまで中国発のニュースだとか、中国のニュースキャスターだとかは、中国政府の公式見解を述べる、政府のスポークスマンしか見たことが無かったが、というより、日本で流れるのはそういうものしかないのではないだろうか。
実のところはどうなのか、日本の国内からは全くわからない。

でもちゃんと居たんだ。報道マンが。
ちゃんとあったんだ。対外スポークスマンでないニュースキャスターが。

冒頭で柴静氏を訳者がインタビューする場面からスタートしているが、その中で、中国と言うお国柄での報道の制約や難しさを訳者が質問したところ、どんな国にだって制約はあるはずだ。中国の皇帝の時代の言論統制のあった時代に「紅楼夢」は生まれたし、同じく言論の自由が無かったはずの帝政ロシアにあったってトルストイは生まれた。
と、他の例をいくつか並べて、だから現代の中国でまともな報道が出来ない訳は無い、と。
これを言わざるを得ないということはかなりの制約の中での限られた報道なんだろうな、と思ったが、中身を読んで驚いた。

SARSの発生時の彼女たちの対応。
カメラはだめ。マイクはだめ、と言われても中へ入るという彼女に病院関係者は「中へ入る意味があるのですか?」と問いかける。
まず、報道できるかどうか、音を流せるかどうか、の前に彼女は自身の目で見、自身で話を聞く、そして彼女の見た真実を追いかけることを優先する。

彼女はテレビ局の中で原稿を読むだけのキャスターなんかではなく、第一線の取材記者も兼ねているのだ。

中学生だったか高校生だったか、未成年の女の子たちの連続服毒自殺の未遂事件。
麻薬中毒患者の取材。
中国では人間扱いされない同性愛者の取材。
ドメスチック・バイオレンスに苦しむ女性の取材。
猫を噛みちぎった女性の映像を巡っての取材。
四川省の大地震時の取材。

なにより、政府が対外的に発表したくないはずの公害問題についてもかなり突っ込んで、地方の役人を責め立てている。

もちろん、放映されるまでには、いくつかの検閲という関門があり、それをパスして初めて放映となるのだが・・・その取材内容は政府に不都合な内容は無かった事にして、という内容ではない。
県知事レベルなどはしょっちゅう取材対象となり、批判対象ともなる。
地方の役人レベルからの取材拒否や嫌がらせなどはしょっちゅうだったことだろう。

それって深追いし過ぎたら命狙われたりとか、結構危険なんじゃないのか、と思われる材料も構わず、取材対象に迫っていく。

そして彼女やその周囲のスタッフが作成する報道番組で何人もの役人の首が飛んだりするのだ。
そんな報道が中国国内では行われていたんだ。

この本、たまに文章・文章間の構成がどうもすっきりしなかったり、わかりづらかったりするのが玉に傷。
著者はテレビメディアの人なので書き手としての問題なのか、原著はもっと膨大で、日本語訳を出版するにあたってかなり削ぎ落したのだというが、その削ぎ落して再構成する際の問題なのか、訳者の力不足なのかはわからない。
ただ、変に削ぎ落すのではなく、原著にあるがままに出版されたものを読みたかった。

この人を持って、キャスターと呼ぶなら、日本のニュースキャスターと呼ばれる人たちの言動はなんと安易なものに思えたことか。
なんと薄っぺらなに感じたことか。

やっぱり、あの国は外からではなかなかわからないことが多いなぁ。


中国メディアの現場は何を伝えようとしているか -女性キャスターの苦悩と挑戦-  柴静 著


27/Nov.2015
凶犯 張平

他にも読みかけの本があったのだが、これを読みだすともう他の本などはどうでも良くなってしまった。
しばらくの間、他の本を開いてみても、なんだか読む気がしない。
それだけの後味を残してくれる本なのだ。

それにしてもなんという凄まじい光景なんだろう。

身体の至る所、致命傷を負い、顔も人相が変わってしまうほどにボコボコにされ、片足は元々義足、もう一本の足目掛けて大石を叩き付けられ、ほぼ完治不能。
腕の骨も折られて、全身から出血多量状態、歩くのは到底無理な状態なのに立ち上がって歩いてその場を立ち去り、自宅のある山を這って登り、ライフル銃を持つや、再度、山を這っておりて、自分をそういう目に合わせるための元凶となった四兄弟をたったの四発で仕留める。

その状況から言えば、報復なのだが、話はそんなに単純ではない。

四発を放った男は、元軍人の国有林保護監視員。名を狗子という。
ここへ任命される時に、人は狗子を羨ましがったという。
着任早々は、近隣の村からの貢物が絶えず、家族では食べきれないほどの食材が届けられる。
山の中を散策した狗子が見た光景は、散々盗伐されてあちらこちら禿げ散らかされた山の姿。
前任者たちは盗伐を見逃す代わりに貢物をもらっていたわけだ。

ここで2年か3年間、要領よく勤め上げれば、一生暮らせるだけの蔵が立つだろう、と言われている。

そう言われても尚、彼は国有林である山林を守ろうとし、盗伐を取り締まる。
自己の利益や一族の利益を内より優先しそうな、あの中国という国に、国の物だから公のものだから命がけで守ろう、とか一生暮らせるだけ財を捨ててまで守ろうという意思のある人の存在にまず驚く。
そんな概念があったことにすら驚く、が、この話、実話を元に書かれているのだという。
狗子は自分の心にやましい行いをしてしまいそうになると、戦争で死んでいった戦友たちの顔がまず頭に浮かぶのだという。

彼が赴任してまだ3か月かそこら。
彼にどれだけおいしいエサをぶら下げても彼が木材の違法伐採、盗伐に目をつぶらないヤツだとわかった瞬間から、村人たちの彼への強烈な嫌がらせが始まる。
もはや、嫌がらせという域ではない。
村に一つしかない井戸を使わせない。
水汲み場はコンクリで覆われ、見張り役を立てる。
彼が山の中で湧水の水源を見つけ、そこから水を調達しようとすると、翌日にはそこに動物の糞尿と蛆虫がばら撒かれる。
山の中にポツンと住んでいるはずが、監視されている。
水も食料もまともに調達できなければ、餓死するか、あきらめて出て行くしかない。
嫌がらせではなく、強制追い出し。
それを村人たちに指揮命令していたのが、四兄弟と呼ばれる悪党。
一番上でも30代半ばだというのに良くそれだけの実権を握れたものだ。
暴力という力で脅し、得た金という力で言う事を聞かせ、村はもとよりその上の郷やもっと上の組織へのコネという力で得た財をさらに膨らませ、その圧倒的な力で村を支配する。
彼らに逆らって、生き延びた人間少なくともこの村には居ない。

だからこそ、この四兄弟を仕留めなければならなかった。
復讐のためなどではない。
この国のためにも村の為にも四兄弟をのさばらせてはいけない。
そのために狗子は血みどろになりながらも、歩けず這ってでも戻って彼らを討ち果たそうとする。

この四兄弟の様なのは極端にしても多かれ少なかれ、類似の実態があるのだろう。
このような作家の登場にまず驚くが、それよりも何よりも、良くこれが無事に出版されたものだ。

しばらく前に出版されていたのを最近知ったが、少なくとも今年読んだ本の中で最も心に残る一冊をあげろと言われたらダントツ一位だろう。


凶犯  張平著  荒岡 啓子 (翻訳)
10/Apr.2017
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