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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Oct.2017
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死刑囚が刑の執行を前に最後の煙草の一服を要求する。

ところがこの国、煙草に関する規制がことのほか厳しく、非禁煙場所での喫煙は法律で禁じられており、この塀の中もまた禁煙地帯。
方や「死刑囚は刑の執行前に習慣に適った最後の望みを果たすことが許される」とこれまた法律に謳われている。

塀の中の責任者はなんとか別の望みを・・と懇願するが、その死刑囚は「俺は単に煙草を1本吸いたいだけなんだ」と譲らない。

すったもんだのあげくになんと「死刑囚の健康を守る」というまさにブラックジョークのような展開で刑の執行は留保される。

それがお話の始まり。

この国では煙草に対する規制が厳しいばかりか、子供を極端に大切に扱う法が施行されている。

主人公の男性はバスに乗り合わせた子供達が座席を占拠し、後から乗り合わせた勤め人やら、ご老人が立ったまま耐えている様子に耐えかねて「子供は座席を譲るべきだ」と言ってしまうのだが、子供達の指導員から白い目で見られ、それどころか大人たちからも呆れた目で見られてしまう。

どうもこの国では子供に文句を言うと厄介なことになるらしい。

市長は選挙の人気対策のために、行政センターのオフィスの半分をまるごと託児所にしてしまう。
行政サービスの低下よりも子供を大切にするという施策の方が選挙では有利なのだ。
その結果、オフィス全体が子供の遊び場所と化してしまうのだが、職員は彼らに文句や注意すら与えない。与えることが出来ない。
また子供に害を為す危険性があるものを排除する理由でそれまであった喫煙所は廃止され全面禁煙に・・・。

主人公はトイレで煙草を吸っていたところを幼女に目撃されたことから悲惨な目に会ってしまうのだが・・・。
と、あまり内容にはふれないでおこうか。


この作者、フランス人である。
ではこの本はフランスが舞台かというと否、架空の国が舞台であるということになるのだが、フランスでは2008年にカフェやレストランなど公共の場所での全面禁煙となっている。

この本そのものはフランスでは2005年に刊行されているのだが、そうした世の中の風潮は2005年でも始まりつつあったのだろう。そういう風潮が背景にあることは容易に想像できる。

この本の主人公氏の子供嫌いはかなりのものである。
子供は人間ですらない。動物だ、クソガキだ!とはあまりに子供を過大評価し、尊重してしまい、「子供は嘘をつかない」「子供は正しい」とのたまうその周辺への反発からの言葉なのかもしれないが、子供とは未発達で未完成なものと再三再四その言葉が出てくるあたり、案外作者そのものの考えそのものなのかもしれない。

「この本は私達の社会に潜む危うさを強調している」と訳者があとがきで述べているが、そうした危うさはフランスのみならず、かつての先進国と呼ばれた国での共通したことなのかもしれない。

WHO(世界保健機構)は先日の5月31日(世界禁煙デー)を前に各国の煙草メーカーは女性に対する販促活動を強化している、と問題提起し、各国政府へ規制強化を呼びかけたのだとか。(2010年5月31日 日本経済新聞)

日本においても健康の押し売りみたいな施策はかなり進みつつある。
本来個人に帰するべき責務であるはずの健康というものを国家や自治体が押し付けてくる。健康ファシズム。
煙草に限らず、メタボにしてもそうだ。
平成15年に施行された「健康増進法」の条文のなんたる愚かさ。
「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」
ってねぇ。
健康の増進に努めなければならないってそんな押し付けってなんなんだろう。
そればかりか、選挙に向けて子供を大切にするという名目の政策を是が非でも通してしまうような政権の考え方などはほぼこの本に登場する為政者に類似してやしないか。

この本、フランスではかなり話題となった作品なのだという。
英訳されたものはイギリスでも話題に。

邦訳ものはどうなんだろう。
「幼女と煙草」というタイトルは違った内容を連想させてしまう。

一昔前に筒井康孝の小編で「最後の喫煙者」という喫煙者が弾圧されるという、少々これと似通ったところのある作品があったが、タイトルだけでもだいぶんと伝わるものが違う気がする。

05/Jun.2010