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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Jul.2017
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憤死 綿矢りさ

いままでに綿矢りさの小説作品は何作も読んできた。
「インストール」や「蹴りたい背中」に始まり、「勝手にふるえてろ」や「かわいそうだね?」などなど、どの作品の主人公も女性だ。
女子特有のもやもやした感情を書いているのに、不思議と暗い物語にはならず、スムーズに読んでいけるものばかり。そんな読みやすさが気に入っていた。

しかし今回の「憤死」は、男の子の主人公の作品もあった。
いつもの癖で女の子だと思って読み始めたので、男の子だとわかってからも最初はほんの少し違和感があったが、読んでいるうちにすぐ慣れた。
全4作品の中でも印象に残った2つを紹介したいと思う。

■トイレの懺悔室
少年たちが公園で遊んでいると、よく声を掛けてくるおじさんとの交流から始まる。
そのおじさんの自宅へ行った時、おじさんはキリスト教の考え方を子供たちに話し、牧師めいたことを語った。
そしてひとりひとり薄暗いトイレに来てもらい、子供たちの懺悔を聞こうというのだった。
主人公の男の子は残忍なやり方で虫を殺したことを告白。
そして万引きの経験を打ち明けた。最初はおじさんの牧師の真似事を馬鹿にしていた少年だったが、懺悔することでどこか心が晴れるのを感じた。

そして月日が流れ、少年たちが再会したとき、おじさんの話題になる。
おじさんの様子を見に行くこととなった主人公は、年老いて弱ったおじさんの姿を見ることとなる。
懺悔しに来た時のことを思い出し、暗い気持ちになったところで物語は終わる。
人が弱くなったところを見るのが怖くて、お見舞いには行きたくないという彼の考え方が妙に心に残った。

■憤死
このタイトルで、憤死をいう言葉をはじめて知った。
文字通り、憤りすぎて死んでしまうことらしい。

愛する人と別れることとなり、自殺未遂をしたという昔の同級生、佳穂。
これだけ聞くとなんとも繊細な女の子を想像してしまう。
しかし彼女、別れが悲しくて飛び降り自殺未遂をしたわけではない。
別れたことが悔しくて、腹立たしくて怒りに打ち震えていると、気が付いたらポンと飛び降りていたのだという。

主人公の女の子は、この話を聞いて学生時代の佳穂のことを思い出していた。
ウサギ当番をしない佳穂を、みんなが責めたことがあった。
彼女は主人公の女の子を連れて、おとなしくウサギ小屋に向かった。
そして餌の入ったバケツを持ち上げると、狂ったようにバケツをそ振り回し叩きつけ、激昂したのだ。

佳穂はケーキを食べるとき、最初にメインのいちごにフォークを突き立て、食べてしまう。
佳穂は自分の自慢話ばかりを並べ、主人公を今も昔も見下しきっている。
決して万人受けするとは思えない佳穂。
しかし怒りを全身で表現し、感情をぶつける佳穂の行動を読んでいると、なぜだろう、完全には憎めなくなってしまう。
死んでしまうほど激しい感情を持つ彼女の素直さに、魅力さえ感じた。


「憤死」に収録されている、「おとな」「トイレの懺悔室」「憤死」「人生ゲーム」は、どれも幼少時代の話が基盤にあり、大人になってから再会したり理解が深まったりして、話が進むという共通点がある。
子どもの時はなんとなく過ぎ去ってしまった体験も、大人になり振り返ってわかることもあるということだろうか。
作品の内容1つ1つだけではなく、本全体の構成からもテーマが読み取れる一冊だ。


09/Sep.2013
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