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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Jul.2017
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ブラックボックス 篠田節子

自分達で村を作って農業したり、東京湾に魚を呼び戻そうとしたり、無人島を開拓したり、ということをやっている日曜日のテレビ番組がある。

その番組の中で「0円食堂」という企画がある。
0円、即ち放っておけばゴミとなってしまうものを材料に料理を作ろう、というもので、食材の余りやら、見た目が悪く売り物にならない野菜やらを0円でもらって来て、食材に使って、おいしい料理を作ってしまおうというものだ。

地域の道の駅なんかで売られている食材を見て、作っている工場などにアポ無しで突然訪問する。
それまでにもこの番組、ガソリン無しのソーラーカーで日本を一周するとかで、その道々で、食品工場などいくらでも訪問しているのだが、偶然訪れたように編集しているが、それらがいかに周到にアポイントを入れていたものか、がよくわかる。
アポ無し訪問に対する不審のまなざし。それから徐々にテレビクルーを連れた有名芸能人が来たのか、と態度が豹変していく。

実はアポ無しで食品工場へ訪問するなんて、そのうちトラブルになるんじゃないかと実はヒヤヒヤしながら見ているのだ。
ミートホープの様な例は稀だろうが、もっと強い小さなことを大目に見ているところは多かれ少なかれあるのではないだろうか。
いきなり来たテレビクルーなんかに撮られてしまったら、逆ギレされかねない。
ほとんどの食品工場は衛生第一、安全と安心をお届けするのだろうが、それでも自社で作った惣菜などは絶対に食べませんよ、などという話は結構こぼれている。


衛生管理に徹すること、これは日本の食材提供者達の必須命題なのだろうが、この物語に登場する食品達はどうなのだろう。

海外からの研修名目で来日した女子が夜通し働くサラダ工場。

黄色い完全殺菌の液体に浸された野菜。ツヤ出しのための薬品などを用いると普通、一日でしなびてしまうはずの野菜達が2〜3日売れ残ってもしなびることなく、テカっている。永年ここで働いているベテランパートは、ここのものを食べたら死ぬよ!自分の孫には絶対に食べさせない!などと後輩にしゃあしゃあという。

このレベルでも相当だが、案外我々も口にしているのかもしれない。


地産地消。安全で農薬を使わず、天候にも左右されない農業。
大雨、暴風雨、強風、日照り、害虫・・などの幾多の自然、天候の気ままに左右される農業はもはや生産をするというよりもバクチをしているようなもので、こんな状態では攻めの農業など出来ない。
キチっとした生産計画に基づいて必要な受注分は必ずその日にお届けする、これでなければ、農業に未来はない、という素晴らしい理想を掲げたに見える法人による完全工場の農場。

はやりの有機農業と言ったところで、隣の農家が農薬を散布すれば農薬は交る。
自然の肥料のつもりがその肥料に使う生ゴミに農薬の入った野菜くずが交れば、検査結果で、無農薬の烙印を押してもらえないかもしれない。
それに何より有機農業、無農薬農業は高くつく。

そんな問題を外の世界から完璧に切り離した完全滅菌の工場生産で解決しようという。
太陽の光は使わない。
強すぎたり、曇ったりに左右されないように。
LEDのライトが24時間野菜を照射する。
完全滅菌のため外の菌は一切入り込まないようにする。

その工場で作られた野菜や野菜を使った食材やらがその地域を独占していく。
ファミリーレストランの店はもとより、学校給食も、そして病院の給食も・・。

絶対安心安全の食材が食べられているはずのその地域で何故か子供達に次々と発生するアレルギー。
命を落とすケースも出てくる。

しかし役所が定めた安全基準には完璧に合致している。
叩かれるはずがない。

主人公の女性は深夜勤務で日本人のパートとしては唯一、ファイリピーナやペルー人や中国人の研修生という名の労働者と共に働き、彼らの身に起きたことを見て危険を察知する。

シロウトの我々から考えても無菌状態だの、太陽の光に当てないだのと、それだけでもいかがわしいし、不健康なシロモノだ。
無菌状態でしかもLED光のみしか浴びてないので、あまりに無味なので、出荷前にこれまたナノテクノロジーレベルの味付け材が浴びせられる。

なんだか攻める農業に水を差すような話だが、この深夜勤務での食品工場でのあり様などは、リアリティ満点で実際に体験せずにここまで書いたとしたら凄い想像力と言うしかない。

ただ、残念なのはその会社をバックで支援するのは保守党議員であったり、その保守系の市長であったりする。
なぜ、そんな政治色を盛り込む必要があるのかなぁ。
せっかくのお話なのに、そんなところでしらけさせて欲しくは無い。

この物語では会社側に悪意があったことになっている。
会社側は海外の研修生を劣悪な環境で安くこき使い、会社の悪い噂は封印し、地元農家を騙し、消費者も騙し、尚且つ工場長は海外から来た若い女性にセクハラしまくる。そんな悪い会社に描かなくったって、この会社の謳い文句である「本当に日本の農業の未来を考える」会社だったとしたら、どうか。
彼らはこのやり方なら、アフリカの砂漠のまん中でさえ農業が可能。世界の農業を変えると豪語するが、善意ある会社だったらもっと怖くはないか。

太陽の光も浴びない、無菌状態の野菜などそんな不健康なものを人類が食べはじめたらどうなる。
幼い頃から食べ続けていたら、それこそ菌に対する抵抗力の無い子供に育ってしまうのではないだろうか。

無菌ほどこわいものは無い。



ブラックボックス 篠田節子 著


08/Jul.2013
はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 篠田節子

近未来を扱った短編四篇。

◎「深海のEEL」
駿河湾で突然獲れた巨大ウナギにとんでもない量のレアメタルが含まれていて、という資源問題から、最近話題の尖閣問題までが盛り込まれている小編。

日本近海の深海にはイラク一国の石油埋蔵量をはるかに超えるメタンハイドレートなどの天然資源があるのだ、とどこかで聞いた話を思い出してしまった。

それともう一つ。
ウナギの天然卵を世界で初めて、ハワイ沖だったかグアム沖だったかで採集することに成功した、というニュースを聞いたのは今年ではなかっただろうか。

何かそんな直近の話題を思い起こしながら読んでいると、なんだか半分実話じゃないのか、なんて錯覚を起こさせてくれる話。


◎「豚と人骨」
遺産相続した土地をマンションに、とマンションを建設しはじめたら、その地下から大量の人骨が出て来て・・・。
すわ、大量殺人事件か!いやいやそんな話じゃない。
縄文時代の人骨なのだが、何故そんなところに大量に・・という謎と奇妙な時代を超える寄生虫の話なのだが、そんなことよりも家を建てようとして、その地下から遺跡が出てきてしまうとどんな目に会うのだろう、とそっちの方に興味を注がれてしまった。

元近鉄バッファローズの梨田選手、現日ハム監督がかつて家を建てようとした時に、その地下から遺跡が出て来てしまったという話を思い出してしまった。


◎「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」
高性能のストーカーロボットに追いかけられる女性。
実はこのロボット、「ボノボ」という熱帯に生息し、生殖行動が人類に近いと言われるサルを姿は全く模していないが思考、行動を限りなく模したロボットだった。

村上龍の近未来小説の「歌うクジラ」の中には、人類がボノボの真似をするというシーンがあったのを思い出した。

ボノボって流行りなのか?


◎「エデン」
この小編がなんと言っても圧巻だ。
本のタイトルになっている「はぐれ猿は・・」よりもはるかにインパクトがある。

日本へ帰国したら、禅宗の雲水になってひたすら修行の道が待っている。
その日本への帰国間近のパーティで、大麻を吸ってしまった青年。
オトリ捜査でパーティ会場に居た連中が次々と警察に引っ張られて行く。

警察に捕まったとしてもアジアのどこかの国のように死刑になったりと、とんでもないことにはならないだろうが、簡単に領事館に連絡を取って釈放というわけにもいかないだろう。

そんな時に救いの手を差し伸べてくれた女性の車に乗ってしまったのが運のつき。
厳寒の雪の平原を何時間もぶっ飛ばして到着した集落で、いきなり彼女の父から彼女との結婚を迫られる。

厳寒の地で逃げ場はどこにも無い。
当たり前の如くに強要された作業。
2050年に完成させるトンネル工事だ。
酒もコーヒーも無ければ、テレビも電話も無い。
外の世界から切り離された世界。

地球の裏側で起こっていることを知って何の意味がある?
大地震があった。干ばつがあった。テロリストが事件を起こした・・・。
どんなニュースも我々に何の希望も与えてこれやしない。

彼女の父でもあり、その集落を率いる存在でもある男が言う。

そうなのだ。一昔前の、情報というものがその村落の中だけで閉じていた世界へとやって来てしまったのだ。

果たして近未来小説なのか。
最後、やはり近未来なのだ、と実感させられるが、何不自由の無いと思っていた世界が果たして幸せだったのか、という大いなる命題を突きつけてくる。
そんな小編でした。


はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 篠田節子 著 文芸春秋<br />


12/Sep.2011
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