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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Sep.2017
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町長選挙 奥田英朗

今となっては、ちょっと話題としては古くなってしまった感があるが、数年前のことなどすぐに忘れてしまう我々には今頃読むのが丁度いいのかもしれない。

各々別の物語ではあるが、全て一人の医者との関わりを持つ「オーナー」「アンポンマン」「カリスマ稼業」「町長選挙」という短編が四篇。
というより一人の医者を主人公とした世相ものの読み切りが四篇という表現の方が的確か。

医者と言ってもまともじゃない。
日本医師会の理事のどら息子といった感じの神経科の医者で、タメ口はきくは、ろくすっぽ診察もせず、いきなり注射を打とうとするわ、とはちゃめちゃ。
ところが、そのはちゃめちゃぶりにも関わらず、なんだかんだと診察に訪れた人に本当の自分を気づかせたり、最終的には治してしまったり、と不思議な存在なのだ。
日本医師会で気が付くのだが、この本では実在する団体名、政党名などが平気でそのまま出て来るものと、架空の名前で登場するものがあって、その使い分けの基準はなんなんだろう、と少々気になった。

おそらくこういうことなのだろう。
実在する団体名を使ったところは、この本で書かれた事とはまったく事実には関与しない団体で、東京グレートパワーズだの大日本新聞だのナベマンだのライブファストだのと言った架空の名前でありながら、読者にはそれぞれ読売ジャイアンツ、読売新聞、ナベツネ、ライブドアのことだろう、とわかってしまうような存在こそが、今回モチーフとしていじりたおしてますよ、ということを強調するサインになっている。

「オーナー」の主役はあの読売巨人軍の元オーナーにして読売新聞社会長のナベツネ氏。プロ野球をセ・パ両リーグから1リーグ制へ移行しようと画策するが、反発した古田選手のことを「たかが選手が」と言ってしまったがために、マスコミから袋叩きに会う。
暗闇が怖い、閉所が怖い・・・だが、弱いところは人には見せられない、絶対的な地位に居る人の孤独が感じられるが、この先生にかかるとそもそもその絶対的な地位であることを忘れさせられたりする。

「アンポンマン」の主役も一時の時の人であったホリエモン。
パソコンを使いすぎて、漢字は読めても書くことが苦手になる人は多いが、ここに登場するホリエモンならぬアンポンマンは、ひらがなを忘れてしまう。
田原総一郎と思われる人とのやり取りは、いかにも現実にあったようなやり取りが再現されていておもしろい。

「カリスマ稼業」歌劇団出身で40代とは思えない若々しさと美しさでブレイクしている女優が主役。
摂取カロリーを絞りに絞って体形を維持し、お肌もすべすべ、化粧ののりもいい。
それでもそれが努力の結果だと見せたくないのが、女優という職業らしい。
世の中、アンチエイジングの花盛り。
「そんな歳には見えない」と言われることを喜びにし、日々苦悩するわけだが、圧倒的な若さを前にしてしまえば、そんな作り物の若さなど到底太刀打ちできるものではないのだった。


そして表題の「町長選挙」。
東京都でありながら、東京よりはるか彼方の離島で繰り広げられる選挙戦。
まったく島を二分する選挙で、公務員が公務時間中だろうがなんだろうが、仕事そっちのけで選挙運動に邁進する。
昨年の大阪市長選挙での大阪市職員を思い浮かべてしまった。
負けた陣営は四年間、砂を噛む生活を強いられる。
中間層を取り込むためなら、接待づくしはするは、金は飛び交うは、と無茶苦茶な選挙運動だ。
それもこれも元凶は地方交付税。
たった人口2500人の過疎の島ながらインフラは大都市顔負け。
図書館もスポーツ施設も箱モノはどれも豪華で立派なものばかり。
勝った陣営はそんな使いたい放題の予算を握ることになるわけだ。

これもどこかで聞いたような話ではある。
この話と瓜二つの選挙合戦が島を二分して繰り広げられるのだ。
東京都ではないが、鹿児島の南の徳之○とかいう島だったかな。

地方交付税もここ数年で減って来てはいるはずではあるが、この地方交付税の廃止こそが、国と地方の役割分担を明確にするんだ、と訴えているのが今の時代の人、橋本徹大阪市長だ。

この本が書かれた頃の時代の人がホリエモンなら、今の時代の人はやはり橋本市長だろう。
この人の手にかかれば橋本氏はどんな病気にされてしまうのだろうか。

町長選挙  奥田英朗 著


14/Apr.2012
無理 奥田英朗

東北のある地方の町が舞台の物語。
3市町村の合併で出来たそれぞれの頭一文字ずつをとってその名も「ゆめの市」。
「夢の」とは名ばかりで、現代の地方都市ならその中のいくつかは必ず心当たりが有りそうな問題山積みの全く夢の無い町なのだった。

財政赤字、高齢化、シャッター通り商店街、高福祉と名を変えた住民エゴ・・・。

生活保護受給者が急増し財政をひっ迫させているため、生活保護の不正受給を減らそう、と取り組む社会福祉事務所に勤める男は、日々その受給者(彼らはケースと呼ぶ)の我がままに辟易とする毎日を送る。

ケースに呼び出されたかと思えば、テレビ映りが悪いからなんとかしろ、だの。

ある受給者は無職の女性で子供が二人。亭主とは離婚して収入なし。
その受給額はなんと23万円。しかも医療費も全額無料。
働かないことが理由でそれだけもらっている人間が額に汗して働こうという気になるわけがない。

そうかと思えば、受給者であるのをいいことにパチンコ屋通いをする男が居たり・・・。

そんなケースワーカーの苦難があるかと思えば、途端に場面が変わる。

元暴走族たちを社員にして、ほぼ詐欺と言ってもいいような商法で商品を売り付けてる会社とその会社のセールスマン。
ほぼ詐欺とはいえ、働いてお金を稼ぐ、儲ける、という喜びを見いだした地方の若者の姿である。

そうかと思うとスーパーでの万引きを捕まえる保安員の仕事をする中年の女性。
孤独を紛らわすためなのか、新興宗教に溺れて行く。

はたまた、こんな町絶対に出て行ってやる、と東京の大学へ進学する事を心に誓う女子学生。

地元への公共事業誘致という従来の政治手法にすがる市議会議員。

この同じ市に住む5人がそれぞれ別の物語を入れ替わりばんこに主人公となって物語をすすめて行く。

ブラジル人の労働力を頼りにする製造業誘致のために、町にはブラジル人の若者が増え、地元の暴走族と諍いを起こすさま。

引退したはずの市会議員が道路拡張話に親戚の土木会社を割り込ませようとごり押しをするさま。

富裕層向けのインフラのなさ。

出て来る話、いつかどこかで聞いたような地方の悩み話ばかりなのだ。


電気製品が使えないとケースワーカーを呼びだすジイさんの言い分は、電気屋に頼むにも金が無い、車が無いので修理に持って行けない、家電量販店に電話したら寿命だから買い換えろ、と言われる・・・
だからと言って税金でメシを食っている役人をこき使っていい理由にはならないのだが、そこらあたりにも、地元の気軽に修理を頼める電気屋さんが無くなったという時代の描写なのだろう。

この本のタイトルの「無理」というのは、登場人物それぞれの立場で、現状を打破しようとした結果、最後に出た結論が「無理」という諦めに持って行く話なのではないだろうか。
などと勝手に想像していたのだが、だんだんと話が込み入って来る。

頭のいかれた引きこもりの誘拐犯。
これも頭のいかれた受給候補の男。
破棄物処理施設建設反対を訴える市民団体のオバさん達。
新興宗教同士の信者争奪戦。


そしてそれぞれの主人公達が同じような犯罪に手を貸したり、被害者になったり、付き合わされざるを得なくなったり・・・。
と急展開は良かったのだが、最後がちょっといただけない。

その終結ってどうよ、と思ってしまうような終わり方なのですよ。
出だし好調で、ぐいぐい読ませて頂いただけに、ちょっとだけ残念だったかな。



無理  奥田 英朗 著


11/Dec.2010
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