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銀二貫 高田 郁

かつて大阪高槻のかなり山の方へ入ったところでの寒天作りを見学に行ったことがある。
その地域の寒さが寒天作りに適していたことと、商都、大阪への水路がその地での寒天作りを盛んにさせたというが、見に行った時には現在ではその寒天作りを行うところもほんの数件しか残っていないと言われたっけ。
この本にはその高槻の寒天作りの起源を作ったと思われる人物も登場する。

この物語、大坂天満の寒天問屋の話。

寒天問屋の店主が目の前で繰り広げられる武士の仇討ちのやり取り見て、武士に対して仇討ち銀二貫で買うと言い出す。

仇討ちを買うと言っても既に討つ側は相手を斬りつけている。
そのとどめをさそうとするのをその討たれた側の武士の子供が身体を張って守ろうとしているのだ。放っておけば、その子供まで斬られてしまう。

寒天問屋の店主は、銀二貫で武士の子供を救い、番頭の反対を押し切って丁稚として雇い入れる。

銀二貫というのは金にすれば三十三両に相当するのだそうだ。
銀二貫も金三十三両も現在の貨幣価値ではどのぐらいかはわからないが、その後何年もかかってようやく貯めることが出来ることを考えれば、かなり大きな金額に相当することはわかる。


この本では大阪の町が何度も大火で焼かれる。

焼かれても焼かれても立ちあがって行く人達のたくましさのみならず、暖簾を背負っている男たちの矜持が見事に描かれている。

半生かけて貯めるほどの銀二貫の使い方たるや、見事と言うほかない。

武士の生き様を書いた本は数あるが、大阪商人の美しい生き様を描いた本にはそうそうお目にかかれない。


この本は大阪商人の矜持と彼らが天満の天神さんをいかに大事に思っているか、を教えてくれる。



銀二貫 高田 郁 著


08/Jan.2014
てのひらたけ 高田 郁

2010年の夏の猛暑、そしていきなり10月後半にやって来た急激な寒さ。北海道では30年ぶりの早雪だったそうだ。
2010年は秋が無くなって四季ではなく三季になったのだろうか。
ここ何年か、猛暑の夏と冷夏、雪の降らない冬があったかと思うと急にドカ雪の豪雪。
大雨の被害も多い。
世に言う温暖化の現象なのだなどと根拠も無く言うつもりは毛頭無い。
温暖化fではなく、日本の近隣の大陸が急発展したために自然の秩序が崩れたのだ、などと言う人も居れば、地軸に変動があったのでは・・などと言う人もいる。
被害に遭った方々には申し訳ないが、その様なことは、何十億年という地球の歴史の中では取るに足らないことなのかもしれない。

さて今年は猛暑のために野菜が不作になったかと思えば、松茸は豊作なのだとか。
キノコ類で言えば、毒キノコの被害が結構でたそうな。
気候の変動に強い品種が急激に増えてしまったということなのだろうか。

「てのひらたけ」という本には、高田侑という人が書いた中篇・小編が四篇ほど収められている。

中でも本のタイトルになっている「てのひらたけ」などはタモリがストーリーテラーを務める(別にストーリーテラーを務めているとは思わないが一応そういう前振りではじまる)世にも奇妙な物語の原作になりそうな作品である。

「ひらたけ」というきのこは食材として存在するのは知っているが「てのひらたけ」という名前のきのこが実在するのかどうかは知らない。
本の中では手のひらの形にそっくりで、まるで地中から子供の腕が生えているように見えるのだという。
おそらく作者の創り出した産物だろう。

ある特定のきのこが幻覚作用を引き起こすことはよく知られている。
マジックマッシュルームだったかな。幻覚症状で飛び降り自殺をしようとした人が出たのは。
テングタケを食べると嘔吐や下痢を起こすのも昔から良く言われている。
スーパーマリオのゲームに良く出て来て、スーパーマリオがビョーンビョーンと跳ねるあのきのこ、あれはおそらくベニテングタケ。
あれも嘔吐や下痢どころか幻覚まで起こすひどい毒キノコで、大人も子供も幻覚症状になるほど・・ではないにしろ、スーパーマリオにはまってしまうのは案外きのこのせいなのかもしれないなぁ、などというのは戯言でした。

この「てのひらたけ」というきのこもどうやら幻覚症状があるらしい。
主人公は友人から「てのひらたけ」のうわさを耳にする。
一目見るとそのまま生で食べてみたくなるきのこで、そして幻覚というのもこの世のものとは思えないような魅力的なものなのだという。
それを聞いた主人公は一人で深い山へと向かい、けもの道を分け入り、そして「てのひらたけ」の群生地帯を発見する。
さて、果たして主人公はどんな魅力的な幻覚を見たのでしょう。
それとも現実をみたのか。
・・・・
ほんの簡単にふれておくと時代を超えた人と恋愛をしてしまう。
という素敵なお話。


「あの坂道をのぼれば」
学生のアルバイトが「世界のケツの穴みたいな場所」と罵るような職場で働く男。
行きつけのスナックの若い女性におぼれ、妻も子も住む場所も仕事も全て捨てて人生の再出発を図ろうとする。
家を出る朝、父の日のプレゼントを持ってきた二人の幼い子供を駅のホームに置き去りにするシーンが忘れられない。


「タンポポの花のように」
こちらは逆に父に遊園地で置き去りにされた少女が初老の女性となって行く様を描いた話。
50代半ばの女性が初老と呼ばれるのには少し違和感がないでもないが、その生き樣はまさに初老なのかもしれない。
この女性、最後まで父が大好きだった。


「走馬灯」
これも世にも奇妙な物語に出てきそうな話である。
とうに葬式を終えて死んでしまった父は実は時間を超えた世界に生きていたのかもしれない、という奇妙でありながら実は暖かい話。

この作者、こういう不思議な世界やを描く作家を生業としている人だとばっかり思っていたが、巻末の紹介欄に「現在は町工場に勤務」と書いてある。
2009年5月が初版なのでおそらくまだ町工場に勤めている人なのだろう。
なんだか、この作者が一番世にも奇妙に思えて来てしまった。


てのひらたけ  高田 侑(双葉社)


04/Nov.2010
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