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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Jul.2017
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アトミック・ボックス 池澤夏樹

今の時代、最新の顔写真もあって氏名も素性も割れている場合、指名手配されてからの逃亡というのは如何に難しいのことなのだろうか。

車を使えば高速道路や幹線道路にはNシステムがある。
街には至る所に監視カメラが。
新幹線や飛行機などはもってのほか。
携帯電話も通話をしなくても電源を入れただけで場所が特定される。
銀行のATMも使えない。クレジットカードも使えない。

瀬戸内海の島の一介の漁師にすぎないと思っていた父。
その父が癌で死ぬにあたって娘の美汐にあるものを委託する。

父は、国の極秘の施策として原子爆弾の開発を行っていた。

日本の政府の立場は、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則であることは元より、対外的にも「核拡散防止条約」に署名している。

だが、核は持ってはいないが、作る気になればいつでも作れる、という状態を保つことが一枚の外交カードとなり得る、との考えの上でその状態にまでしておくという目的のための極秘Projectチームに父は参加していた。

Projectが解散する際に持ち出した設計資料の一部を遺書と共に娘に託す。
父が死ぬまで島の郵便局員さんだとばかり思っていた人が実は警視庁の公安警察だったこともあり、母娘はこの30年近く父が監視対象であったことを知る。

それからが美汐の逃避行である。

警察は父が延命を頼まず、意識が無くなったら死への背中を押してくれるように、美汐へ頼んでいたことを理由に、警察は父への殺人容疑という別件容疑で美汐を指名手配する。
この逃避行譚がなかなかにして面白い。
尽く警察の裏を書いて行くところも痛快なら、瀬戸内海の島から島へと渡って行く際の各島の風景、村上水軍の名残りとしての気ごころも面白いし藤原純友の末裔かと思われる家も登場するなど、瀬戸内好きにはたまらない。

それにしてもこの作者、原爆開発をテーマにしたものを書くにあたって、原発の問題を無理矢理からめていないだろうか。
原発問題を書く必要性はあったのだろうか。

著者が核に対してどういう思想を持っていようが構わないし、原発についてもどんな思想を持っていても構わない。

ただ、売れっ子作家として絶対にしては行けないことをしておられるのではないだろうか。

「福島」という言葉を放射能の代名詞のように書いておられる。
父が自分が広島原爆の被爆者だったと知った時、自分の身体の中に福島が居る、だとか。

これらは事故直後に海外のメディアの報じた「FUKUSIMA」と同じこと。
「FUKUSHIMA」が固有名詞化されていた状況に対して福島の人たちどれだけ悔しい思いをしたか。

この物語、痛快なところが多く面白い本なだけに、そういう安直な表現が残念でならない。



アトミック・ボックス 池澤夏樹 著


02/Jun.2014