読み物あれこれ(読み物エッセイです)
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黒書院の六兵衛 浅田次郎 著
黒書院の六兵衛、このタイトルが日本経済新聞の朝刊に連載されていたのは知っていた。 せっかくの浅田次郎さんの書きものなので何度か読んでみようとトライしたが、どうしたって毎日、毎日読めるわけじゃない。 とびとびになる日があると、ストーリーが繋がらないので結局読むのは断念することになる。 新聞には各紙とも連載小説が載っているが、果たしてちゃんと読んでいる人なんているのだろうか。 よほど隈なく新聞を読めるほどに時間的に余裕のある人たちか。 それでもコラム欄なら一日飛ばしたところで次の日に支障はないが、連載小説となるとそうはいかない。 月刊誌ならともかく、毎日発行の新聞でこれが続いていることは大いなる疑問なのである。 で、黒書院の六兵衛である。 勝海舟と西郷隆盛との取り決めで江戸城が無血開城することと決まった。 官軍の先遣隊長は尾張徳川の徒組頭。 城内の侍の大方は恭順を誓っているというのだが、たった一人どうしても了簡できぬ侍が居るのだという。 彼が見たのは江戸城内に黙って居座るたった一人の御書院番。 御書院番というのは旗本中の旗本。 西郷隆盛の命令にては、一切腕ずく力ずくはいけないという。 いかに説得を試みようにも、そのご書院番は黙して語らない。じっと座っている。 周囲の話を聞けば、その的矢六兵衛というご書院番、ある日突然別人に入れ替わったのだという誠に不思議な話。 幕末ともなれば、御家人はおろか旗本と言えども借金だらけ。 御家人の株を買ってにわか武士になるということもあるらしいが、旗本ではまず有り得ない。買うにしてもあまりに高すぎて値段が付けられないほど。 しかもその時期たるや、大政奉還をしようかという時期。 で、にわか旗本に入れ替わったはずの六兵衛の方が元の的矢六兵衛よりもはるかに武士らしい。 品格といい、その挙措といい、旗本らしい堂々たる威風といい・・。 六兵衛はその後も、上野の山の彰義隊が散った後もずっと居座り続けるのだが、だんだんとその行為が本来の御書院番士としての行為なのではないか、と思われて来る。 幕府が出来て260年間、その間に失われていった本来の旗本の有りようとはそういうものではないのか、と思われてくる。 浅田次郎 に「一路」という260年前の参勤交代の行軍録を再現する武士の話があるが、似通った面がある。 彼は260年間で腐りきった旗本・御家人の本来の姿を幕末のしかも将軍が退去した後の江戸城で再現してみせている。 浅田次郎氏は最近、幕末からみた復古の話に凝っているのだろうか。 16/May.2014
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