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読み物あれこれではスタッフが各々勝手きままな読書感想文を書いております。暴言・無知・恥知らず・ご意見はいろいろお有りでしょうが、お気に召した方だけお読み下さい。
   
Jun.2018
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ハッピー・リタイヤメント  浅田次郎
廃墟建築士 三崎亜記
ハイブリッドカーは本当にエコなのか?   両角岳彦
半島を出よ 村上龍
博士の愛した数式 小川洋子
白鳥異伝 荻原規子
はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 篠田節子
ハケンアニメ! 辻村深月
驟(はし)り雨  藤沢周平
果てしなき追跡 逢坂 剛
花の鎖/境遇 湊かなえ
ハリー・ポッターと死の秘宝 J.K.ローリング
ハリー・ポッターと謎のプリンス J.K.ローリング
春告げ坂 安住洋子
ハッピーバースデー命かがやく瞬間 青木和雄
ハードル 真実と勇気の間で 青木和雄
阪急電車 有川浩
犯罪小説家 雫井脩介
犯人に告ぐ  雫井脩介
バージェス家の出来事 エリザベス ストラウト
バーティミアス プトレマイオスの門 ジョナサン・ストラウド
売国 真山 仁
バイバイ、ブラックバード 伊坂幸太郎
幕末史 半藤一利
ばくりや 乾ルカ
化物語 西尾 維新
バターサンドの夜  河合二湖
薔薇盗人 浅田次郎
晩夏のプレイボール あさのあつこ
盤上のアルファ 塩田武士
ばんば憑き 宮部みゆき
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氷点 三浦綾子
ヒア・カムズ・ザ・サン 有川浩
東のエデン 神山健治
悲惨伝 西尾 維新
密やかな結晶 小川洋子
ひそやかな花園 角田光代
7月24日通り 吉田 修一
悲痛伝 西尾 維新
羊と鋼の森 宮下奈都
光秀曜変 岩井三四二
人質の朗読会 小川洋子
ひとり日和 青山七恵
火花 又吉直樹
悲報伝 西尾 維新
肥満と飢餓 ラジ・パテル
日御子 帚木蓬生(ははきぎほうせい)
秘密 東野圭吾
悲鳴伝 西尾 維新
姫椿 浅田次郎
ひりつく夜の音 小野寺史宜
昼が夜に負うもの ヤスミナ・カドラ
貧者を喰らう国  中国格差社会からの警告 阿古智子
美少年探偵団 西尾 維新
ビタミンF 重松清
ビヨンド・エジソン 最相葉月
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フィッシュストーリー 伊坂幸太郎
フェイク 楡周平
顔 FACE 横山秀夫
フォルトゥナの瞳 百田 尚樹
風神秘抄 荻原規子
ふがいない僕は空を見た 窪 美澄
筆に限りなし − 城山三郎伝 加藤仁
不撓不屈(ふとうふくつ) 高杉良
舟を編む 三浦しをん
不発弾 相場英雄
フランスジュネスの反乱  山本三春
フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由 横田増生
フリーター、家を買う。  有川浩
震える牛 相場英雄
憤死 綿矢りさ
仏果を得ず 三浦しをん
武名埋り候とも 西岡まさ子
ブラックオアホワイト 浅田次郎
ブラック・スワン降臨 手嶋 龍一
ブラックボックス 篠田節子
ブルー・ゴールド 真保裕一
ブルー・セーター ジャクリーン・ノヴォグラッツ
ブルータワー 石田衣良
ブレイブ・ストーリー 宮部みゆき
文学少女と死にたがりの道化 野村美月
文学少女と飢え渇く幽霊 野村美月
文学少女と神に臨む作家 野村美月
プーチン 内政的考察 木村汎
プリンセス・トヨトミ 万城目学
ぷろぼの 楡周平
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兵士たちの肉体 パオロ・ジョルダーノ
変な国・日本の禁煙原理主義 山崎正和/養老孟司
ペテロの葬列 宮部みゆき
ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦
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ホームレス中学生 田村裕
放射線のひみつ 中川恵一
北天蒼星 伊東潤
星月夜 伊集院 静
星やどりの声 朝井リョウ
蛍坂 吉村 達也
本屋さんのダイアナ 柚木 麻子
ボックス! 百田 尚樹
ぼくらのひみつ  藤谷 治
ポトスライムの舟 津村記久子
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檸檬 梶井基次郎

高校の教科書で初めて読んだ『檸檬』。
鳥肌が立つほど感動して興奮しました。
しばらく図書室の画集を積んで檸檬を置こうかと思ったくらいその世界に酔いました。
初めて読んだときから10年以上が経って、学生の時のようには感動できないかと思ったら、今のほうがその世界にどっぷりはまってしまいました。

ざっとあらすじ。
体を病んだ主人公が、不安定な心と感性で世界を眺めます。
今まで好きだったものに興味がわかなくなり、はかなく色彩豊かなものたちに心を惹かれます。
『えたいの知れない不吉な塊』に圧えつけられる日々。
ある日、何かに追われるように主人公は街を彷徨います。
そんな道すがら、気に入りの果物屋で檸檬を手にします。その途端、心が少し軽くなったような幸せを感じて、うそのように軽い足取りで街を闊歩する主人公。
かつては好きだったけれど今は入ることが憚れる丸善へ今なら入れるのではないかと足を踏み入れますが…。

ひまわり、カンナ、花火やびいどろ。
物語の始まりから美しいものの名前が次々に並べられて、頭の中にたくさんの色が飛び交います。
それらは主人公の性格や病に重なって、ひどくはかないものたちに感じられます。
でも透明で消えてしまいそうなものたちの中に突然はっきりとした輪郭を持つ檸檬が登場すると、急に物語の中の世界がはっきり見えるような気がするのが不思議です。

檸檬の力で踏み込めた丸善。
檸檬のおかげで明るくなりかけた心にどんどん雲が広がっていくように、手に取りめくっては閉じてを繰り返され積み重ねられていく画集。
画家によって全く異なる画集の厚みや色。重なっていったらどんなにたくさん色がアンバランスに重なり合っているのだろうかと想像します。
でもその上にのせてみた檸檬が、主人公のアンバランスな心に一瞬の安定をもたらしたように画集に絶妙な安定を与えます。
『見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。』が一番好きな一文。
キーンでもなくカーンでしかないと思うのです。
でもその安定は主人公の心と同じ、長く続く平穏ではなくて爆発前の一瞬の静けさ。
檸檬をそのままに丸善を後にする主人公は、檸檬が爆発して美術棚を吹き飛ばしたらという想像をします。
檸檬で爆発する色たち。
冒頭から連ねられてきた美しいものたちが爆発して飛び散って、いっそう儚くそして美しく感じられるのです。

この物語を読んでいると、とにかくその世界に酔ってしまうのです。
あまりに物語が完璧に完成しているように感じられます。
読み終えたあとは、美しいショーを見てその余韻に浸っているような気分になります。

うまく説明できませんが、心が弱ったとき、元気なときなら気づかなかった色や物事に目がいって、感動したり傷ついたりします。でも元気になるとまた気づかなくなってしまって、いつのまにか感動したり傷ついたりしたことまで忘れてしまうことがあります。『檸檬』の物語には、心の中にいつかあったのだけど消えてしまったような、ものすごく繊細で傷つきやすい何かが形になってて、それが檸檬を通じて自分と繋がるようなそんな気分になるのです。

感傷的になってしまいますが、世界にはまりすぎた自分にも酔える一冊です。


檸檬 梶井基次郎 著


01/Sep.2011