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Dec.2017
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津波災害――減災社会を築く 河田惠昭

著者の河田惠昭という人、この震災直後より何度かテレビにてお顔を拝見した。
確か内閣の肝煎りで発足した復興構想会議の一員にもなったのではなかったか。

この本はこの度の震災の直前に刊行されている。
2010年のチリ沖地震津波をきっかけに書かれたものであり、津波被害に対する警笛を鳴らしている。

著者の警笛がもっと浸透していたら今回の津波被害は少なくなったか、というと多少は、とは言えても必ずしもYESと断ずることは難しいだろう。

この本には津波被害についての恐ろしさや津波のメカニズムの解説、津波に対する対処などがふんだんに述べられているのだが、よもや一つの地方そのものがほぼ壊滅状態になり、町や村全体が流されるような事態までは想定していまい。

著者は通常の津波にて、住民の避難率が低いことを問題視しているが、それは今回の震災と津波にも当てはまるだろうか。

この度の震災に関してはいずれ歴史的検証もはじまるだろうが、確かに万を超える多くの方が亡くなってしまったわけだが、行方不明の方の大半は、巨大地震で家が倒壊しその直後の津波にて家ごと流され、その戻り波にて家ごと海へと持って行かれてしまったような、もはやどうしようもない状態の方が大半だったのではないだろうか。

寧ろあれだけの津波が押し寄せたにしては、こと避難という意味ではかなりの人が避難され、避難率は低いどころか、状態から見れば高かったのではないだろうか。

特に小学校などは普段の避難訓練が行き届いていたのか、小学校の校舎はもろ被害に遭いながらも小学生は全員無事だった、という報道を何度も聞いた。

東北地方沿岸部はそれだけ、津波に対する用心を行っておられたが、その用心のレベルをはるかに超える津波が来、しかも大震災で崩壊した家で動けない人はもはや逃げるという選択肢すら持てなかった。
そんな方々が大勢おられたのではないかと推察する。


「東北の万里の長城」と言われる防潮堤を築いた町がある。
岩手県宮古市の田老町。高さ10M、最大幅25M、延長2.4Km。

津波を減殺するはずの無敵の防潮堤ですら、今回の津波にあっては破壊されてしまっている。

筆者は津波は防波堤に激突した段階でそのエネルギーは増加され1.5倍の高さになると述べられておられる。
10Mの津波に対応したはずの防波堤であっても防波堤にぶつかり15Mの津波になってしまうのだ。
この度の津波報道を見ていてもある工場などでは、はるか天井近く高さ16Mの位置まで海水が押し寄せた跡などが映されていた。

筆者が述べるように100%の事前対策などはないのだろう。
減殺ではなく減災。
完全無欠の防潮堤があったとしてもそれに驕らず、逃げるにしかずなのだろう。

かつて、京都の桂イノベーションセンターというところを訪れたことがある。
京都市内の賑やかなところではなく、京都の中でもすこしはずれた場所で近隣には歓楽街どころか飲食店すらほとんどなかったのではなかったか。そんな場所に京都大学の土木工学科の研究施設があった。
そこではビルの中にすっぽりビルを作るという途方もない研究が行われていた。
外ビルがどれだけの強度の地震にあってものそこで揺れを吸収してしまい、まるでぶら下がっているかの如くの内部の建物には一切揺れ感じさせない、そんな研究をしていた。
そこで言う外ビルがまたビルの中にある研究施設なのだからどれだけ巨大な施設か想像がつくだろう。
それを見たのはもうかれこれ10年近く前だったと思うが、その後の耐震ビルと言ってもそんな技術が用いられたなどはトンと聞かない。
巨額な重要施設では案外用いられているのかもしれないが・・。
いずれにしろ、民間使用するにはそんな耐震施設など莫大な費用がかかりすぎて実用化は難しいだろう。
だが、揺れを吸収してしまうというところに津波にも同じようなヒントはないだろうか。
津波に関してもじゃぁ10Mで足らないなら15Mの、20Mの防波堤を作ろうという発想は土台無理がある。
こと相手は自然なのである。
真っ向から向かうのはもう辞めにして、そのエネルギーを緩やかに吸収するような技術、誰か研究を始めないかな。
高く高くするよりも吸収する技術と言うのだろうか。
サッカーでどれだけ強いボールが飛んで来てもすっと足元に落とせるのは瞬時に引いてボールの勢いを吸収してしまうトラップという技術があるからである。
ボクシングにしたって真っ向から顔面ストレートを受けたら途端にダウンだろうが、瞬時に引くことで相手のパンチの勢いを吸収してしまう。
吸収と言ってもサッカーボールやパンチを例に出せば、規模が違いすぎるだろうが!とお叱りを頂戴しそうなので、表現を変えれば、津波を真っ向から防波する堤ではなく、その勢いを逃すような技術とでもいえばいいだろうか。


河田先生の本のことを書くつもりが後半は思いつきのことを書いてしまった。
この本には貴重な記述が多々あるし、教わることも多々ある。
せっかく2010の年末に刊行したばっかりではあるが、1896年の明治三陸地震のことや、1933年の昭和三陸地震のことや、1993年の北海道南西沖地震のことや、2004年のスマトラ島沖地震のことや、2010年のチリ地震のことなど過去の地震津波のことは写真も交えていろいろな計測値で満載なのですが、いろいろな意味で既に我々に伝わり済みのこともありますし、今回の震災を踏まえて新たな減災社会に向けてあらためて加筆、いえ書き直して頂く必要があるのだろう。

とは申せ復興構想会議の委員をなさっておいでなので、その結論が無ければおそらく何も始まらないだろうし、始める気もなさそうな気配濃厚なので、河田先生には本を書き直す暇などありますまい。

一刻も早く復興構想会議からの提言を出して下さいませ。



津波災害――減災社会を築く 河田 惠昭 (著) 岩波新書


30/May.2011