電車の中でのほんの些細な出来事(その三)

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朝の満員電車、とは言えそんな全く身動きが取れないほどのギュウギュウ状態では無い。
その電車の中に乗り込んで来た、若い男。
この若い男はとにかく「いらち」である事がその態度でわかる。
満員電車なので仕方がなかろうと思うのだが、人にちょっと押されると、

「何さらしとんじゃい」

とばかりに押し返しをして、身体をくゆらせる。
何度かそれを繰り返して行くうちに勤め人風の男と言い合いになりました。

「なんじゃい」

「やるんかい」

の応酬だけで終っていれば、朝から吉本新喜劇を見た気分になるところなのですが、それでは終りませんでした。
なんと満員電車の中で殴り合いを始めてしまったのです。
殴り合いと言ってもほとんど、その若い男が一方的に殴っている観があるのですが。
それに殴ると言ってもさほど自由の効く状態では無いので手先だけでの殴り合いですが、迷惑を被っている人は明らかに存在しました。
その若い男と勤め人の間に挟まれた格好で背の低い女性が居たのです。
手先だけのパンチはその女性の上空で繰り出されていたのですが、パンチを引く時に何度も女性の頭にコツンコツンと当っているのでした。
なんせ、私の目の前の出来事なのです。放置は出来ないので、

「兄ちゃん、もうそのくらいにしたれや。他のお客さんに迷惑やんかいな」

とやわらかくなだめて見ると、どうでしょう、その若い男は後ろの私へ向き直って、

「なんじゃい、こら」

と風向きはこちらに向かって来そうな雰囲気。だがそれもつかの間。
元の勤め人の方へ向き直りました。
実は若い男が振り向いた時に彼の目を見てしまったのでした。
血走っている、という表現ではまだ足りない。とにかく目だけが異様にギョロッとしていて「狂人の目」と言うものはこういうものではないかと思わせる目と言う表現が妥当でしょうか。
狂人という言葉は確か放送禁止用語でしたよね。でもこういう辺鄙なところに書く分にはOKでしょう。
こういう目をしたヤツには何を言っても無駄、と思わせる様な目をしていました。

とりあえず、横やりが入ってパンチの応酬も一時停止状態にはなりましたが、
次の「中津」という駅で勤め人が降りようとすると、

「待たんかい、こら」

と言って腕を掴んで一緒に降りてしまったのです。
あの若い男がもしナイフなんぞを持っていたりしたら、あの男なら使ってしまいかねないでしょう。
不幸な勤め人と若い男がホームに下りてからは、もう見えないのでその先は知る由も無いですが。
中津という駅は終点の梅田の一駅手前の駅。
中津から梅田までは歩いても行ける距離なのですぐに終点梅田駅到着。
で降りる間際にそのコツンコツンされていた背の低い女性に

「ありがとうございました」

と一言、言われただけの事。
後は満員乗客の人の流れで各々別々に歩いて行った。
ってせいぜいそんなものじゃないのでしょうか。
「お名前と住所を聞かせて下さい」
なんて現実界ではちょっと想定しづらい。
ましてや、お礼にエルメスのカップだなんて。